2019年1月31日木曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第2章_5

 タラール・デアイエはまがった事が嫌いな男である。また武人としての武がはげしい領主であるために、アジャール側の見方はどうしても猪突な印象を拭い去る事が出来ず、この盲点がアジャリアとしては稀な敗戦を招いたのである。
「あの砦は双頭蛇ザッハークそっくりだ。二つの頭が互いを援けるように動く。胴を叩いても勿論頭にやられるから、こちらもやり様がない……」
 攻城に加わっていたエルザフも、己が力量不足を感じて苦々しく呟いた。
「アジャール軍が掛かっても落とせなかったのに、小勢の我らが力攻めで勝てるわけがない。謀将アルハイラトの智恵の見せ所か……」
 程なくしてハラドのアジャリアに、エルザフがハイルを陥落させた、との報せが入った。先の戦いでエルザフらの先鋒がハイルを落とせないのを受けて、アジャリア本隊を向かわせる算段をしていただけに、これはアジャリアにとっては嬉しい誤算だった。
 剛攻めが無理と踏んだエルザフはアサシンを遣った。弱小勢力であるシルバ家は、周囲の領主達と互角に渡り合うために、アサシンを多数雇っている。シルバ家の自由な宗教気風を好いて、アサシン等が寄り付き、シルバ家が抱えていけるアサシンは、その家財に比して多いものだった。後にアジャリアの孫であるレオ・アジャールも、エルザフの孫のムザフのアサシンとなり右腕として大いに暗躍する事になる。
 エルザフの命を受けたアサシンは、ハイルに潜入し夜の内に塔の見張りを倒し内側から門を開けた。そこからはまるで戦いにならない程、シルバの兵達は一方的にデアイエの兵達を駆逐していった。
 暗殺型のアサシンを派遣して、直接タラールの命を奪う手も無くは無かったが、万が一不首尾に終わった場合、アジャリアの顔に泥を塗る事にもなりかねない。故に開門させた後、兵を以って討つという比較的手堅い手段をとった。
 シルバ家がアジャール家という大樹の枝の一つとなったとき、エルザフは大樹が伸びていく過程で、自分達も旧領であるリヤド近辺の小さな集落を回復し、戦功次第ではその近くのアルカルジも得られるやも、という程度の期待しか持っていなかった。
 だが、父ナムルサシャジャリを追放したハラドの街の無血革命の手腕を鑑み、さらにアジャリア本人の器に直に触れてみて、
 ――存外伸びるかもしれぬ。
 という明るい展望を抱くようになった。この大器に蜜を注いでいけば、いずれは自分達にも余剰に与れる日が訪れる。父を領地から追い出す、と言葉では簡単なようであっても、その実、昨日まで父に従っていた家来達を一人も漏らさず掌握するという難事であり、それを成したという事に、アジャリアの恐るべき統率力と計画性の高さが窺い知れるのである。
「アジャリア様のネフド砂漠侵攻を援ければ、いずれシルバ家がリヤドの主になる日も来るかもしれない。いや、さすがにそれは欲張り過ぎか」
 小領を守るだけでも、これまで四苦八苦していたエルザフには、リヤドという大きな領地さえ手に入れれば、それによって守る事くらいは簡単に思えたのだが、持たざる者共通の、獲得するという夢幻に彼が在ったとしても、何人もこれを嗤う者は居ないはずである。
 アジャール家に身を寄せるようになってから、シルバ家の評判は良くなかった。特にシルバ家と同様のリヤド周辺の小領主達からは裏切り者ように見られ、自分達はああはなるまいと頑なに守りの姿勢を強めたのだった。
 しかし、今回のハイル陥落の戦功を見て、シルバ家の評価は一変、その強さを印象付け、その知略を敵に回したくはないという、恐れとも、羨望ともつかぬ感情を彼らに持たせる事になった。
 こうしたシルバ家周囲の小領主達よりもさらに、アジャリアはエルザフの事を評価した。
「エルザフ・シルバこそ我らアジャール家の柱と言って良い。此度の戦功によりアジャリア・アジャールの名を以ってシルバ家の旧領回復を認める」
 エルザフの功を認める言葉の裏に、エルザフ・シルバが今回の手柄を立ててくれたという喜びがある。つい昨日来たばかりのような、新参の士族が、真摯にアジャール家の為に働いてくれた事にアジャリアは感謝した。

※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

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2019年1月30日水曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第2章_4

 カーラム暦972年。アジャリア・アジャールの下に、エルザフらシルバ家が置かれるようになり、四年が経った。酷暑が去り、月が明るく見える時期である。
 アジャール家とベイ家が激突する以前に、アジャリアのネフド侵攻に立ち塞がった男が居た。ハイルの街を拠点とするタラール・デアイエという猛将である。
 タラール・デアイエは二年前の戦いでアジャール軍を撃退しており、アジャリアにとってはタラール・デアイエを倒す事が最も重き課題であり、この時点では、ハイルの先のジャウフやアラーの攻略など望むべくもなかったのである。これに打ち克たんとアジャリアは、ハイル攻撃の軍を編成している。
 ハイルはネフド砂漠を取り巻く街の一つで、ダフナー砂漠にも接する。花崗岩の山に囲まれたこの盆地は、年間の雨量は少ないものの、一度雨が降ると、涸れ谷ワジは大きな土砂の流れとなり、水を吸った砂地は人や物を引きずりこむようになる。
 相対的な位置としては、カトゥマルとその母の家が拠点としているリヤドから西北西に、徒歩で二週間の場所にある。街を高い塀で囲み、塀に門を四ヶ所持つ。
 周囲には野生の駱駝ジャマルが生息しており、人が使う主要路を彼らがのんびりと横切っていく事も決して珍しい光景ではない。彼らにとっては人の世の戦など知った事ではないのである。
 二年前にアジャリアはタラール・デアイエのハイルに仕掛けたわけだが、先鋒にエルザフを抱えたアジャール軍ですら、ハイルの街の城壁の欠片すらも得る事はかなわなかった。無敵のアジャール軍を相手取るだけに、タラール・デアイエもただ猪突な人ではなく、一領主として恥ず事のない軍略も持っていた。
 タラール・デアイエの相手は南から攻めてくるアジャール軍ばかりではなく、近隣のバルナウィー軍との小競り合いも、今や日常茶飯事となっている。バルナウィー軍の拠点はカイド、或いはアルカイドと呼ばれ、ハイルのすぐ北に在る。
 アジャール軍側から見ても、デアイエ軍とバルナウィーの仲が良くないのは明らかで、今回もタラールが軍を率いて北に向かったので、またバルナウィー軍と一戦始めるつもりだろうと見て、その隙にハイルの街を奪取してやろうと目論んでいた。
 ところがである。アジャール軍がハイルを攻めにかかるや、タラールは部隊を反転させ、ハイルに舞い戻ってきた。そればかりか後ろに援軍としてバルナウィー軍まで連れて来ていたのである。

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2019年1月29日火曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第2章_3

 アジャール家のいわば外来の将であるシルバ家が、戦功をあげる事を面白く思わぬ輩も少なからずいて、彼らは陰煞いんさつの星のような存在となったが、それでもバラザフは、
 ――殺さずして得られればなお良い。
 と言って、バラザフ達子らに、頭で勝つ事の正当さを示した。まだ父しか大人を知らぬバラザフにとって、それは智の太陽だった。
「いいですか、バラザフ」
 息子や目下の者であっても、自分の言葉を見下ろすような姿勢にエルザフはしない。
「欲するという事はつまりアマルなのです。人は欲する事を止めてはいけないし、そのための努力を止めてもいけない。知恵を絞り、そして歩み続けなさい」
「では、未来を視る眼が欲しい私はどうすれば」
「未来を常に見据える他無い。未来を視る眼が欲しいという渇望が欲する物を引き寄せるのです」
「果たしてそれで叶うものなのでしょうか……」
「叶うものなのです」
 自分でも得がたい物を欲していると自覚しいるだけに、バラザフには父の方法論があまりに簡単に聞こえた。だが、父の自分への言葉は確信に満ちている事だけはよくわかる。
 父は父で息子の中に謀将としての素養だけでなく、勇将としての面も見出していた。すなわち「欲する」という、或る方向性を持った強さがそれである。

「そうだ、バラザフ。あなたにこれを渡しておきましょう」
 バラザフが手渡されたのは札占術タリーカの札であった。
「これで或る程度の未来は見えるはずです。使い方は自分で調べて習得するように。それも欲する力を鍛える修行の一つです。それから……」
 エルザフは最後に念を押すように加えた。
「占いの結果に振り回されないように。人が築く未来とは常に占いの結果を上回るのが理です。この札占術タリーカに一切左右されなくなった時、あなたは未来を視る眼を得ている事でしょう」
「心に刻んでおきます」
 そう答え、そして頭では分かってはいるものの、これで未来を知れると思ってしまうのが子供である。否、子供でなくとも、未来を知る手段を手にしてしまうと、己が万能にでもなった気になるのが人というもので、占術とは本来、老境の者でないと使いこなせるものではない。そこで垣間見た未来とは、あくまで実現性の高い事象に過ぎないのだが、これを履行されるべき契約のように勘違いしてしまうのが占者の常である。ともあれ、バラザフは占い師を幾人か訪れ教えを請い、札占術タリーカを自ら用いる事が出来るようになった。
 父の訓示をバラザフが理解出来るようになったのは、父も兄も亡くなってからになるのだが、今はまだ札占術タリーカの習熟に重きを置いている若木である。

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2019年1月28日月曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第2章_2

 サルマーン・アジャール、後のアジャリア・アジャールは重臣らと共謀し、父ナムルサシャジャリを門から入れず、クウェートのサバーハ家に預ける事にした。預けるといっても事実上の永久追放で、アジャリアはハラドの無血革命に成功した事になる。
 当主となったアジャリアは、リヤドを侵略し、タラール・デアイエと領土獲得戦を繰り広げるなど、ネフド砂漠へと領土欲の枝葉を伸ばし始めた。
 アジャリアの侵略戦争もここまでは順調に見えた。だが戦線を拡大してゆくにつれて、彼がネフドから追い出した地元の士族アスケリが援けが徐々に必要になってきた。
 その折を見極め、エルザフ・シルバは怨恨あるアジャール家の懐に入り込み、アジャリアの下、一応、重臣の籍に身を置く事となった。これがカーラム暦968年の事で、バラザフが生まれたのがこの次の年の989年である。
 ネフド砂漠から自分達を追い出したアジャール家の禄を食む事に、当然エルザフの中に悩みが生ずる。だが、そこは元来合理的な頭のシルバ家であるので、最優先すべき事は何かと考えた場合、それはシルバ家の旧領回復であるから、アジャール家と共に生きるという道を選んだのである。
 その合理的な頭でさえも、当初は、
 ――まるで冥府に籍を置くようなものだ。
 と、自らの境涯を皮肉り、あるいは死ぬ気で仕えるという臨死的覚悟を以って、アジャールという鋳型の中に焼けた鉄を流し込んでいったのである。
 そして、その鋳型には自分の反感の情だけでなく、親族も入れなければならない。即ち、アジャール家服属の約定の証として、エルザフは息子達のうちバラザフをアジャール家に取られ、この時からバラザフの身はハラドに置かれている。
 アジャール家がネフド砂漠侵攻に先方としてシルバ家を用いるため、旗を反さない確証としての「人質」を求めたという事である。アジャリアの賢い所は、たとえ人質であっても有能な者は上役に取り立てて、しかるべき処遇をしてやる所であり、バラザフの中に利発さを見たアジャリアは、彼を近侍ハーディルに抜擢したのである。
 我が子が主家に重用されているという安心もあってか、バラザフの父エルザフは十分に能力を発揮した。シルバ家が「謀将アルハイラト」と評され始めるのもこの頃からで、エルザフは己が知略を用いて、アジャール家の侵攻の枝葉を四方に伸ばすのに大いに貢献した。

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2019年1月27日日曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第2章_1

 カーラム暦969年にバラザフは誕生した。ナウワーフはバラザフより二歳年上である。そしてアジャリアの子、カトゥマル・アジャールも年近くバラザフの一つ上である。
 ――カトゥマル様がお母上と共にリヤドに移られるそうだ。
 子供の頃から何かにつけてナウワーフは情報を聞きつけて来るのが好きだった。特にカトゥマルついては知らぬ仲ではなく、主家の血筋でありながらも、アジャリアの跡目と周囲からも目されていない事もあって、バラザフも加えて三人は親友として付き合っていた。
 リヤドでカトゥマルが養育されるようになって後も、彼がたまにハラドに訪れる際には、必ず三人で遊びに行く関係が出来上がっていた。
 結局、カトゥマルはアジャール家を継ぐ事になった。
 そのカトゥマルが懐刀としてバラザフにナウワーフ、そして近侍ハーディルの面々を重用したのは当然過ぎる事といえた。
 ナウワーフの家は名家である。彼の父は、アジャリアが追い出したアジャリアの父「アジャール家の猛虎」ナムルサシャジャリの代からアジャール家に仕えている。ナウワーフは父に似て度胸があり、奮闘する質だ。そして社交家で利発な男でもあった。アジャリアはナウワーフのその辺りを気に入って近侍ハーディルに取り立てた。
 元々、重臣の家であるナウワーフと比べて、バラザフのシルバ家はアジャール家の者になってからまだ日が浅い。シルバ家は小さいながらも独立した士族アスケリであった。
 リヤドやジャウフを囲うネフド砂漠には、小領の領主達がひしめき合っている。バラザフの父エルザフもそうした小領主達の一人であった。
 ナムルサシャジャリ・アジャールは縁戚であるリヤドの領主と連携し、シルバ家の所領に攻め込んだ。場所としてはリヤドの少し北。カーラム暦963年の事である。
 弱小勢力である当時のシルバ家やその他の領主が合力しても、ハラド、リヤドの連合軍に抗う術など無く、シルバ家はアルカルジへと落ちて行き、そこの領主に身を寄せる事となった。
 戦勝して帰ってきたナムルサシャジャリは、ハラドの街の門を潜る事は出来なかった。子のアジャリアの反逆である。

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2019年1月26日土曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_30

 戦争から引き上げハラドに戻っても、バラザフの深い心穴は殆ど埋まる事はなかった。
「けしからん事だ!」
 ハラドの街に乾いた寒さが訪れる頃、ナウワーフがまた何か情報を聞きつけたのか、やってくるなり怒り出した。
「おいバラザフ、奴らはけしからんぞ!」
「一体何なんだ」
「ベイ家の奴らさ」
「それはベイ家はけしからんだろうさ」
「そうだろう! 奴らは……」
 ナウワーフが言うには、
 ――アラーの街の太守アルサウドからアジャリアへ報告が入った。それによれば、アジャール軍の死者四万五千人、ベイ軍の死者三万四千人で、これをベイ軍は自分達が戦争に勝ったのだと自讃しているという。
「それは本当にけしからん!」
「そうだろう!」
「勝ったのは我々アジャール軍だ。緒戦の奇襲で追い詰められたのは認める。だがな、ネフド砂漠の地を我々は大半制圧して、ベイ軍は逃げ帰りジャウフの街との連携すら出来なくなったのだから、本当の意味での勝利と言えば、アジャール軍の大勝利だろう!」
 バラザフにとっては、そうでなくてはならなかった。バラザフの言う通り、領土獲得戦争においてはアジャール軍は勝利した。それは事実である。だが将兵の損失という面から見れば、アジャール軍の方が痛みは大きいのである。しかし、五分勝ちという結果を納得させるには、大事な人たち失った哀しみは、あまりに大きすぎた。
 後に「アルハイラト・ジャンビア」と称される程の未来の謀将も、この時はまだ人の死を悲しむ一人の少年に過ぎなかった。
「このジャンビアを振りかざして、エドゥアルド様達を援けに行きたかった……」
 バラザフの目の中で、ジャンビアの孔雀石はその波紋を大きく歪め、揺らした。

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2019年1月25日金曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_29

 朝にベイ軍の色だったネフド砂漠は、今アジャール軍の色となっており、これで勝ったのだとバラザフは思った。すでにあちこちから、アジャリアの音頭を待たず、勝鬨が届きて来て、いつの間にやら防衛線は掃討戦へと転じていた。
 すでに日は西の茜となっている。
 戦勝の趣を余所にアジャリアは、先程まで激戦が繰り広げられていた砂漠を言葉無く見つめていた。
 バラザフが話しかけると、アジャリアは、
 ――あの砂の上に横たわる骸の中にエドゥアルドが居る。
 という。
 さらにズヴィアドも戦死したと聞かされた。あの数多の骸の中から二人を捜し出すのは至難であり、彼らはこのまま砂に埋もれて、干からびて骨となっていくしかない。
 二人の死を聞いたバラザフの目には不思議と涙は浮かんで来なかった。事があまりに重すぎた。胸の奥が痛すぎる。
 悲嘆の壁がバラザフの四方を覆って、目に映る全ての物の色を奪った。
 ――いっそ涙が一滴でも零れ落ちてくれれば、砂に哀悼が浸みて二人に届くかもしれないのに。
 あまりに受け容れ難い現実だ。アジャリアのもとに寄せられたのが虚報ではなかったのか。そう思いたい。
 エドゥアルドとズヴィアド。二人はバラザフにとって偉大な師であり、目指すべき標であった。成人したばかりの子供の心が抱えるにはこれらの死はあまりに重過ぎた。
 バラザフの手の中で、今はエドゥアルドの形見となってしまったジャンビアの重みが増した。
 バラザフにとっても、主君アジャリアにとってもエドゥアルドの死は大きく、アジャール軍にしても戦勝の代価としては過重な事となった。それはズヴィアドの死とても同じで、アジャール軍の軍制にも将兵の心にも大きな穴を穿つ戦争だった。

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2019年1月24日木曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_28

 アジャリアはサラディン急襲の間に一度も剣を抜こうとしなかったが、その理由をバラザフが尋ねたところ、
「わしはサラディンを殺したくは無かった」
 と、アジャリアは意外な言葉で答えた。
「何故、サラディンを生かしておきたいのです」
「血を軽んずるな、バラザフよ」
「血ですか?」
「そうだ。お前が誰かを殺めるとしたならば、それはその者の祖先が最初に此の世に発生してから、悠久に継いで血をここ断つということだ。草木や虫にでさえ同じ事がいえる」
「はい」
「あのサラディンには、わしがここから追い出した数多の士族アスケリが頼り、従っておる。その器量、ここで殺すにはあまりに惜しいとわしは思うのだ。味方となればこれほど頼もしい者もいまい。ま、有り得ぬ事であろうがな」
 この時アジャリアは一本の革盾アダーガの柄で、矜持と打算の二本を立てていたといえる。人を纏め上げる統率力というのは、単純な兵力のように、求めてもなかなか得がたい物であり、サラディンを万が一にでも味方につける事が出来れば、アジャリアの統帥の届かぬミスル地方をサラディンに任せておけばよい、という事になるのだ。
 アジャリアとは、どこまでもその思考に領土欲を含む野心家なのである。
 バラザフにもサラディンが、そしてベイ家が味方になる未来など有り得ぬと思ったが、アジャリアの言う血の重みは、理解出来たと思っている。

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2019年1月23日水曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_27

 バラザフ他、近侍ハーディル達は軍神ともいえるサラディンに気圧されながらも何とか武器を構え、内一人が槍を繰り出した。槍はサラディンの馬の腿に刺さった。驚いた馬はサラディンですら御し難い程暴れ出し、鎌型斧(ケペシュ)による猛襲は止んだ。
 サラディンは言葉を発せずとも、その黒髭が天を衝かんばかりの怒気を発し、近侍ハーディルの若造共を睨みつける。バラザフ達は恐怖で心の臓が止まりそうになり、もはや何も抗えず、足は力を失い地面にへたり込むしかなかった。
 もしこの時サラディンが、
 ――まずこの小僧共から片付けてくれよう。
 とでも考えたら、彼らは死神イラルマウトに、たちまちのうちに命を刈り取られ、若くして冥府の籍に名を連ねる事になったであろう。
 この戦いでアジャリア身辺の守備は、近侍ハーディルと歩兵三十名程度である。
 アジャリアやナウワーフ達近侍ハーディルはアジャリアの傍近くありながらも、死神イラルマウトに魅入られてしまったかのように、全く動けず手出しが出来ない。そうした中で、近侍ハーディルの一人がサラディンの馬へ何か投げつけた。投擲が通った馬の脚に赤い線が走った。
 立て続けに傷を負わされた馬はいよいよ堪らず暴れ出し、サラディンを振り落とそうとする。もはやアジャリアの命を取るのは無理となったサラディンは、手綱を強く引き辛うじて馬を御すると、来たとき以上の速さで死合の場から走り去って行った。
 先程サラディンに投擲を投げつけた、カウザを目深に被った近侍ハーディルも、どこかへ走り去って消えた。だが、我に返った途端、急に恐くなったのだろうと、誰もこれを気にはとめなかった。
 結果としてサラディンを退けたものの、アジャリアの身体には革盾アダーガで受け損なった傷がいくつもついていた。

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2019年1月22日火曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_26

 今、ベイ軍の勢いは強い。士気も向こうが上だろう。見ればわかる。
 アジャリアが思う「手札」はバラザフも思っていた。援軍が来れば、ベイ軍を包囲できれば、この危機は去る。
 アジャリアは待つしかなかった。その間、配下達が血を流し続ける。しかし、待つのだ。待って持ちこたえる他ない。
 日が徐々に高さを下げ始めた。遠くに高く舞い上がる砂煙が見える。騎兵がこちらに参じているという証である。やがて、騎馬兵団が肉眼で見えるようになった。アジャールの各々の別働部隊であった。
「ハリティにアルサウドだな。あやつらめ、焦らしてくれおったわ」
 座したまま落ち着いた体のアジャリアだが、その実、腹の奥が俄かに熱くなるほど踊躍歓喜していた。
 父と兄も来たとバラザフは思った。遠目にもやはり親族の動きは判るものである。援軍のどの人馬よりも、気が冴えていると感じられた。
「ようやく挟撃が適うぞ! 皆よくここまで耐えた! あとは全軍で押し潰すだけだ!」
 丁度、ベイ軍の疲労が目立って来た所に、アジャールの援軍が背後から横から包むように襲い掛かった。ここまで踏み止まってきたアジャリアの本隊の将兵らも、これでようやく息を吹き返し、角に加わった。
 ここでもバラザフは戦況をつぶさに見ている。比較的奥にあるアジャリアの横からでも、ベイ軍の気勢が減衰し斃されて行くのが確認できた。
 刹那――。
 アジャリア本隊の前に、白装束に武具を付け、金糸で刺繍されたターバンを被った黒髭の武人が単騎で駆けて来るのが見えた。握る武器は鎌型斧ケペシュである。見るからに高貴そうなこの武人は――、
「おい、まさか!」
「まさか、サラディンが単騎で来たというのか!」
 敵大将の単騎駆という信じられない光景を見た、バラザフとナウワーフは言葉に出して確かめ合った。
 サラディンが眼光鋭く獲物アジャリア一人に定めると、馬をさらに速めて斬りかかって来た。
 ガスリ!―― 
 アジャリアは座したままサラディンの斬撃を革盾アダーガで受け、瞬時に横に流した。まともに受け止めれば、鎌型斧ケペシュの曲がった刃に盾が引っかけられ、剥ぎ取られてしまい兼ねない。
 ガスリ! ガスリ! ガスリ!!――
 サラディンの刃とアジャリアの盾が強く擦れ合い、削り合う。襲う方のサラディンは馬で駆け抜けると同時に刃を入れ、アジャリアもこれを神経を研ぎ澄ませながら何度も受け流した。気を抜けば盾が取られ、命が取られる。

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2019年1月21日月曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_25

 もはやアジャリアは、伝令の絶望的な報告には心動かさず、巌の如く座に腰を下ろしている。
 聞こえてきた報告からバラザフが読み取ったとおり、アジャール軍は窮めて劣勢である。ベイ軍の奇襲が利いたという事だ。ついに双頭蛇ザッハークの両頭が潰されようとしている。
「のう、バラザフよ」
 アジャリアが傍らで強張った姿勢で諸刃短剣ジャンビアを構えるバラザフに声をかける。
「なぜ砂が黄色いのか考えた事があるか」
「砂ですか?」
 この窮地でアジャリアは気が触れたのかと、バラザフは一瞬疑った。
「そうだ。我らは周りの砂が黄である事を疑わない。今、我らの目の前の事もそうだ。戦争は数が多い方が勝つ」
 アジャリアは老人が孫に夜話を聞かせるようにゆっくりと続ける。
「砂が黄色として在る如く、我らの手中には勝てる算段があった。疑いようも無かったはずだ。だが、此の世に絶対という事は絶対にないのだ。そして……」
 ここでアジャリアの腹に力がこもった。
「この劣勢が敗戦に繋がるという事も、絶対ではない……!」
 辺りの空気が重くなった。だが不思議と落ち着く重さだと、アジャリアの周りを固める近侍ハーディル達は、それぞれ思う事が出来た。
 サラディンの到達をアジャリアは危惧していなかったわけではない。むしろサラディンは来る、と踏んで挟撃を布いていったのである。ところが、その機がいかにも悪すぎた。
 アジャリアは戦場を視ている。だが、それは目の前の危機的状況ではなく、大局眼にて戦場全体を見通しているのである。確かに戦況は不利だ。窮めて不利なのだ。
――だが手札はまだ有る。
 おそらくタブークの街に向かったシャアバーン達はまだ無事の筈だ。アラーの街のアルサウド部隊もまだ温存出来ている。ここを凌げば包囲は破られた事にはならない。まだ挟撃は可能な筈なのだ。
 一方、バラザフはこの戦いで見えざる鍵を得た。
――勝敗は士気だ。生気だ。数は絶対となり得ない。
 という事である。

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2019年1月20日日曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_24

 バラザフ達に命ずる大喝でアジャリアは周辺の大気を震わせた。ナウワーフや他の近侍ハーディル達、そしてバラザフも、戦いに臨む姿勢で各々の武器を構えている。
 霧中――。刃と刃がぶつかる金属音、敵味方の吶喊、火薬の爆音が遠くから迫ってくる。
――不利な戦況だ。
 アジャリアのもとに絶え間なく駆けて来ては告げる、伝令達の言葉から、バラザフはそう判断した。
 腰に佩いているエドゥアルドから貰った御守の諸刃短剣ジャンビアを、バラザフはぐっと握り締めた。
「うわーー!」
 近侍ハーディルの一人が堪えきれなく奇声をあげた。太陽が上へ昇り、霧が消えると戦場があらわになった。白い幕で覆われていた戦いが眼に映ったのである。
 戦場の恐怖は新兵達の口を乾かせ、腰から下の力を奪った。そして頭の一部で、喉が渇いたと、ほんの少し冷静に思っていたりもする。
――前線、崩壊
――様、戦死
 遠くから聞こえてくる伝令の報告は依然として芳しくなく、重臣までもが次々と戦死している。

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2019年1月19日土曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_23

 アジャール軍とベイ軍の最後の戦端が開かれようとしている。
「突き進め! 霧の向こうにアジャール軍が居る。矢も狙わなくて構わん。とにかくつがえて射よ!」
 アジャール軍へ向けて霧の中から矢の雨が降り注いだ。矢に当たった兵達が次々と倒れてゆく。
――敵襲!!
 伝令達はベイ軍襲来の報を持って陣を縦横無尽に駆けた。
「もうここまで来たというのか!」
 突如、霧中より現れ出でたベイ軍の疾風達はアジャリアの心胆をも大いに揺らした。 
「全軍、双頭蛇ザッハークの体系! 稲妻バラクに変形する間に陣をおとされるぞ! 今の配置から決して動かず迎撃せよ! とにかくうろたえるでない!!」
 バラザフは今、夢想の中に居た。自分が目の前の将兵達を指揮し、陣容を動かす指示をしている夢である。そこへベイ軍が奇襲をかけてきたのである。
 一気に醒めさせられたバラザフは、両手に諸刃短剣ジャンビアを握り締め、白き壁に向けて構えた。咄嗟でも意外に彼の頭の奥は怜悧に働き、宝物の方ではなく武器にして良い方の二本の諸刃短剣ジャンビアを無意識に選んでいた。アジャリア本隊の周りには近侍ハーディルが配置されている。
「わしの傍を離れるなよ、バラザフ! うろたえるでない。他の者も打って出るなよ。とにかく自分の身を護るのだ!」
 バラザフ達に命ずる大喝でアジャリアは周辺の大気を震わせた。ナウワーフや他の近侍ハーディル達、そしてバラザフも、戦いに臨む姿勢で各々の武器を構えている。

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2019年1月18日金曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_22

 タブークから出たベイ軍本隊は現在八万。ジャウフの街の部隊と合流しようとしていた。濃霧はアジャール軍だけでなく、ベイ軍の進軍も慎重にさせた。しかし、タブークの奇襲を未然に回避したサラディンも、この時点では濃霧の向こう側にアジャール軍の稲妻バラクが配置されているとは想定していない。
 アジャール軍とベイ軍とは互いに一日で行ける距離にまで縮まっていた。極めて近い。
 ついにサラディンの耳に偵諜から情報が入れられた。
「ジャウフの街の北側に布陣が見えます。数は十万から十五万」
「アジャール自身が出てきたか。それで陣容はわかったか」
「おそらくアジャリアの稲妻バラク。なお、未だ変形を続けております」
「この霧こそが神が望まれたものだ。アジャール軍は我らがここに居るのには気付いていたか」
「気付いていないと思われます」
「そうか……。ジャウフの街の部隊と合流して後詰と呼応して南北から挟むつもりだったが……」
――布陣もおわらず、こちらにも気付いていない、か。
 この時、軍神の脳裏で機略が閃いた。
「よし! このまま突破するぞ。アジャリアが居るとなればその命貰い受ける好機だ。ジャウフの街は開けずにいよ。アジャリア諸共アジャール軍を蹴散らしてくれる!!」
 多くの戦いにおいて奇襲は極めて有用な手段である。その生涯で負け無しといわれるサラディンは、数多の戦闘経験によってその事を熟知している。今、ベイ軍に吹く風は追い風である。

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2019年1月17日木曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_21

 以前にバラザフはズヴィアドから陣容について教授された事があった。
双頭蛇ザッハーク。前後の兵が滑らかに稼動出来る。長く延びたこの体系は将兵が多いときに効果を発揮する。稲妻バラクの変種といえる」
――今のこれはズヴィアド様の言っていた双頭蛇ザッハークではないか。
 バラザフの脳内の過日のズヴィアドはさらに教授を続けた。
群飛雁イウザ。雁は群れで飛ぶ。その形がこの体系だ。双頭蛇ザッハークから群飛雁イウザへ、群飛雁イウザから大隊の稲妻バラクへと変形してゆく。さらにここから各所の先端を尖らせるように変形すると並列錐ミスカブになる」
 変形が進むにつれて違えに兵を配置している稲妻バラクの溝が深くなるという事である。
 そしてこれらは陣容の枢要と施用であり、上に立つ者の差配如何で明暗を別けるのだとズヴィアドは最後に念を押した。
 その枢要と施用が、今バラザフの目の前で驚くべき事に生きて動いている。バラザフは愉悦の中に居た。戦場での戦術的な将兵の動きを観ているのが愉しかった。自分が今それを愉しんでいるのだと自覚していないほど没入しきっていた。

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2019年1月16日水曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_20

 作戦決行の日、太陽がまだ地を照らし始める前に、アラーの街を出てネフド砂漠へ向かった。アジャール軍の立つネフド砂漠は、この朝深い霧に包まれていた。
「おそらく何も見えなくなるな」
 濃霧の中、アジャリアは本陣の椅子に腰を下ろした。
 夜の寒さで大気が冷え、朝方に霧が出る事も砂漠では全く有りえない事ではない。だが、この朝の霧は特に濃かった。白が世界を塗り潰し、人の視界が利かない。
「早めにアサシン共に探らせておきましょう。ベイ軍がこの霧の中で転進してしまっては厄介だ」
「うむ」
 アジャリアの懸念を汲み取るように、弟のエドゥアルドが気を利かせて配下に偵察を指示した。この挟撃はある意味において戦いの定石を無視したものである。サラディンの性向を見越して、挟撃作戦に踏み切ったアジャリアであったが、これが定石を破った奇策である事はアジャリア自身が一番よくわかっていた。
 通常であればこの挟撃が見込み薄である事は、先にエドゥアルドとズヴィアドが指摘した通りである。その指摘の内、ベイ軍をタブークから追い出す事については達成出来ている。だが、その先にいくつもの負の可能性が待ち受けており、定石通りに事が運ぶ事はこの場合障壁なのである。
 よって、この作戦を決行したといってもアジャリアは、心中では完全にはこの作戦には倚り懸かる事は出来ずにいた。それを軍略にも兄の心情にも通じた弟エドゥアルドが汲んだのだった。
 こうした首脳陣の威厳を保ちつつも見せる微かな憂虞を、傍で見ているバラザフは敏感に感じ取っていた。
 アジャリアの指示は先に決めた通り稲妻バラクの陣容である。十二万の兵が東西に延び、前後違いに配置されていった。

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2019年1月15日火曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_19

 月が落ちた――。今この世界は闇である。夜が明けたら、おそらくベイ軍との戦いが始まる。この作戦の要点は勿論挟撃にある。ベイ軍をなんとしても稲妻バラクで迎え撃ちたいアジャリアは、夜間の内に軍を横に展開させておく事にした。
 予め雇い入れておいた暗闇を視る事が出来るアサシン達に先導させ、大まかに兵員を配置した。これならば日が出ればすぐに稲妻バラクに陣容を遷す事が出来る。バラザフ達、近侍ハーディルもアジャリア本隊に付いて移動した。
 一方、サラディンの方もアジャール軍との激突が近づいている事を霊的直感で感じ取っていた。タブークの街を出てきたの奇襲を危惧しての事もあるが、自分達が駐屯すれば街が戦火で焼かれて、無辜の民が投げ出されてしまう事にもなるので、義に生きるを貫くサラディンとしては、そのような無意味な悲劇はなんとしても回避したかった。
 そもそも、慈悲心や義侠心で始めたこの戦いで、民を苦しめてしまっては、サラディン自身の義が立たないという事になる。
 少し遡れば、タブークを奇襲するはずであったシャアバーンの駱駝騎兵部隊は、部隊に所属するアサシンを出してサラディンの動向を窺わせていた。だが、サラディン側が動き出すにあたり、向こうもアサシンを動かして、シャアバーンのアサシン達を残らず駆逐していったのである。結果、シャアバーン達がベイ軍の動きをつかみ、アジャリア本隊に報せる事が出来たのは、丁度ベイ軍の後詰がタブークを出た時となった。
 サラディンがタブークを出ると決めてから、後詰の出動が完了するまで、僅か一刻。平時におけるベイ軍の練兵の熟達のほどが窺える。
 サラディン・ベイは無敵の将、徳高き義人であると同時に、敬神の情篤き男である。目に見えざる世界からの霊流を常に受けており、預言者のように言葉に顕し御文を民衆に示すという事はしなかったが、決断が生じる場面において、サラディンはしばしばその霊的直感によって進路の左右を無意識に決定していた。
 そしてその直感によってアジャール軍の奇襲を察知したのである。移動に先んじて偵察のアサシン出してみれば、はたせるかなアジャール軍の密偵がこちらの動きを見張っており、情報を持ち帰らせる前に始末したという事である。
 まさにここでアジャリアの作戦の糸の継ぎ目が綻び始めた。

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2019年1月14日月曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_18

 近侍ハーディルであるバラザフ達は、これらの軍議の流れを全て経験する事が出来、アジャールという家の名を自ら名乗っている「アジャリア」に尊敬の念を新たにした。
 また、アジャリアだけでなく自分の師のエドゥアルドとズヴィアドの大局眼が確かであるという思いも更に強くなった。相手がサラディン・ベイでなければ、やはり彼らの進言が正しいはずだとバラザフは思う。
 アジャリアが危惧した通りベイ軍は、駱駝部隊がタブークに到達する前に動き出した。これを報せて来たヤルバガ・シャアバーン、ワリィ・シャアバーン兄弟の駱駝部隊が、丁度タブークの背後に回るため迂回を取っていた時である。
 アジャリアは、先の作戦通り挟撃の前後で呼応するようアラーの街を進発した。ベイ軍配下に置かれているジャウフの町を北へ迂回する形を取った。アラーの街を出てからここまでで五日。おそらく明日にはベイ軍本隊と相見える事となろう。
 今、アジャール軍は、ハイル、ラフハー、アラー、そしてアジャリア本隊で戦場に弧を描くような陣容となっている。ベイ軍ほ包囲は出来上がりつつあった。

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2019年1月13日日曜日

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菜の花の恵みのように

読者の皆様に当ブログを支援、育成していただき御礼申し上げます。
この先、『アルハイラト・ジャンビア』や『カラビヤートシリーズ』には、菜の花のシーンが何度か描かれる予定ですが、美しい黄色の花ばかりでなく、菜の花は油も人に恵みをもたらす要素です。
当ブログにおける創作活動に円滑を欠く事が無きよう、潤滑油、灯火のごとく、読者の皆様に定期的な支援をしていただければ幸いです。

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もちろんこのブログに掲載した作品は、皆様に無料で最後まで楽しんでいただけるようにする予定です。
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『アルハイラト・ジャンビア』第1章_17

 奇襲であれば当然敵に気付かれてはならない。行軍の砂煙が敵に発見されればすでにそれは奇襲ではなくなるから、晴れ渡った日は避け、行軍速度もぎりぎりに近づくまでは緩慢にせねばならない。
 つまりは、ただでさえ時間が掛かりすぎる上に、天候によって奇襲および、追い立てられたベイ軍がこちらまで到達する時が左右される。機がずれてしまえば前後で呼応して挟撃するのは難しい。
「駱駝騎兵がタブークに着くまでに敵の増援が来ないとも限りません。そうなればタブークからベイ軍を追い出すどころか、街で持ちこたえられ、最悪奇襲部隊そのものが捻り潰されてしまいます」
 ここまで軍議を黙って聞いていたエドゥアルド・アジャールも、ここで、
「首尾よくタブークからベイ軍を追い出せたとしても、まっすぐこちらに向かってくるかどうか。途中でサラディンの本隊が転進すればこの挟撃は失敗に終わる……」
 と、ズヴィアドの説に言葉を加えた。
 軍議に参加する諸将は、一瞬どよめいたが、やがてエドゥアルドとズヴィアドの言葉に納得したかのように、言葉が止んだ。
 こうして軍議に参加する諸将の方向が、概ね驚蛇作戦反対論に流れていったところで、主将アジャリアが初めて口を開いた。
「エドゥアルドとズヴィアドの意見もよくわかる。普通の相手ならばわしもこの策は採択しなかったであろう。だが……」
 アジャリアは一息ついて、
「わしは、サラディンは必ず来ると思う。サラディンはわしがネフドから追い出した者等の命運を背負っている」
 アジャリアは続ける。
「義理に生きる者は計算では動かん。使命感、義侠心、そういったものは損得ではないのだ。サラディンは必ず来る……」
 結局、このアジャリアの言葉で軍議は決まってしまった。
「アラーの街を出てネフド砂漠まで進み出よう。そこで稲妻バラクでベイ軍を包囲殲滅するのだ。ラフハーに駐在するハリティとシルバにも街から出てベイ軍を包囲できる位置に動くように伝えろ」
 アジャリアは全体に指示を出した後、トルキ・アルサウドには、
「アラーの街を守るのがお前の役目だ。ジャウフに居残っているベイ軍の動きを見張れ。驚蛇作戦でベイ軍が敗走してジャウフに逃げ込むようであれば、急いで駆けつけて掃討せよ」
 と、命じた。
 ネフド砂漠を盤面として、ベイ軍を完全に包囲出来るようにアジャリアは確実に駒を配置していった。ラフラーとハイルの街を連携するアジャリア本隊、タブークに奇襲をかける駱駝騎兵、温存するアラーの街のアルサウド部隊の三方から包囲しつつ、サラディン本隊と後方の連携を断つ事も出来る。進言された驚蛇作戦にアジャリア自身が一厘を加え、より作戦の完成度を高めたのである。
「シャアバーン」
「はっ」
「作戦開始までタブークから目を離すなよ。僅かに機がずれただけでもこの挟撃からベイ軍は漏れる。先に向こうが動き出す事があってはならない」
 そこから先はアジャリアは言わなかった。作戦通りに現実が動いているのか機に臨んでいれさえすればいい。機が派生した先には無限の未来が枝分かれする。ずれてしまった時に大将でであるアジャリアが判断すればよいのだ。

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2019年1月12日土曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_16

 月が替わりシャッワール月になった。ラマダーン月を過ぎようやく昼間でも飲食が出来るようになる。依然として雨は少ないが、夜間の冷え込みに耐えるため、そろそろ外套アヴァーが必要になってくる。朝夕に霧が立ち込める頻度も多くなってきていた。
 アラーの街に駐屯するアジャリア本体では、ベイ軍が押さえているタブークをどう攻略するかの軍議が昼夜兼行されている。当然、それらはアジャリアの傍近く使えるバラザフ達の耳にも入ってくる。
「草を打って蛇を驚かす、らしい」
「ふむ?」
 食事中にナウワーフがまた聞いてきた情報をバラザフに話し始めた。そもそも近侍ハーディルが漏れ聞いた軍議を噂するなど、あってはならぬ軍紀違反なのだが、お互いの気心の勝手知りたる仲の二人だけに、こういった情報の疎通の口を塞いでおくのは無理な話であった。
 若いながらも戦術に精通した才気ある二人にとって、こうした情報交換は、初陣の身である事を忘れさせ、戦場の全体像の夢想を膨らませる元だった。連日、近侍ハーディルとして軍議を脇で聞かされてきた事もあって、もはや気分は一人前の武人になっていた。
「どういう譬えなのだ?」
 ナウワーフは周囲に人気に無いのを、すばやく首を回して確かめて、
「なんでも東方の戦術とかで、部隊を分けて用いる」
「それで?」
「草むらを打って蛇を驚かせて、それをもう片方が待ち受ける。つまりは挟撃らしい。別働隊を編成してタブークの街を背後から攻撃して、本隊で待ち伏せるのだろう」
「ふむ……」
「バラザフは納得がいかないのか?」
「うむ……。蛇を殺すときは、頭を壊したかを確かめろ、というからな」
「その頭を壊すために作戦なのだろう? これは」
「だがタブークの背後を上手く突けたとしても、ここまで追い立てるのに一週間もかかるだろう。それまでに反撃されたり、転進されたとしたら……」
 このバラザフの考えとまさに同じ事を、バラザフの師ズヴィアドが先の軍議で献策していた。まず、この驚蛇の策を立てたのは駱駝騎兵部隊長のヤルバガ・シャアバーンである。本来であれば、重臣であるヤルバガに、名目上、一小隊長であるズヴィアドがおいそれと意見を反対できるものではない。
 だが渋面満ち満ちたヤルバガを余所に、ズヴィアドはアジャリアに直接述べた。
「今、ベイ家の拠点となっているタブークの街は、我らのアラーの街から一週間は掛かります。さらにそれを背後から突くとなると……」
 ズヴィアドの考えによれば、一週間もかかる行程をヤルバガの策の通りタブークを奇襲するとなると、当然背後に回りこむ時間が膨らむ。駱駝騎兵部隊といっても十二万の編成全てに駱駝が割り当てられているわけではなく、徴兵された者らや補給要員は自らの脚で砂漠を行軍しなくてはならない。

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2019年1月11日金曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_15

 アジャリアにはエドゥアルドの下にもう一人弟がいる。サッターム・アジャール。彼は容貌がそっくりである事からしばしばアジャリアの影武者コプシュフィダウンに扮する。此度もアジャリアの周りを固める血族等の中に彼は潜んでいた。危機が迫った時に速やかにアジャリアに成り代わる為である。
 当然、バラザフは近侍ハーディル達と共にアジャリアを護る形で、本陣の前に配置された。
「気合が十分過ぎて全く仕方が無いな」
 そう震えながら言うのはバラザフの隣のナウワーフ・ハイブリである。
「バラザフもそうだろ?」
 そう言うナウワーフにバラザフはにやりと返した。だが目は全く笑っていない。脂汗も滲んでいる。
「他の者も同様のようだ。こんな高揚感は戦場じゃないと感じられないからな」
 答えながら、バラザフは近侍ハーディルの他の同僚を見遣った。バラザフの言葉通り皆、自らの気合で・・・で震えている。近侍ハーディルといえども戦場では一人の新兵なのだ。勿論、近侍ハーディルとして普通の兵士よりも権限はある。だが、斬られれば身分の別け隔てなく生身の肉体から血が流れて死ぬ。戦場で死は平等だ。
「よし、俺はもう死んだ」
「なに?? 恐怖で頭がいかれたのか、バラザフ」
「もう俺は死んだんだ。だから死ぬのは怖くない。そして今、生まれ変わった!」
「なるほど! ならば、俺も今死んだ」
 平時であったなら、意味すら成さぬ会話であったろうが、今の高貴なる新兵たちにとっては、戦場での助けとなった。
「邪魔な気合が抜けたな」
「気合が抜けては困るがな。楽になった」
「ああ、楽になったな。死ぬ気がしない」
 このバラザフとナウワーフのやりとりを見ていた他の近侍ハーディルたちも同様に、口々に死んだ、死んだとやりだした。近侍ハーディルたちは俄かに、皆、自分達こそが冥府帰りの無敵部隊だといわんばかりの、奇妙な自信に包まれた。
 この三日後、アジャリアは本陣の移動を決めた。ラフハーには太守としてアブドゥルマレク・ハリティに三万の兵をつけて残し、本体をアラーの街に動かす事にした。
「ハリティ様の役割は、ベイ家が占拠するタブークへの睨み、ということらしい」
 ナウワーフが仕入れたての情報を早速バラザフに持ってきた。ラフハーに置かれるハリティ部隊にバラザフの父と兄もいる。父エルザフはハリティ部隊の参謀を任された。

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2019年1月10日木曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_14

 アジャリアの戦法の独特なものとしてタスラム部隊がある。歩兵の懐に石膏で出来た投擲武器を持たせ、敵と遭遇したときに渾身の力でこれを投げつけるのである。
 物をぶつけられて怯んだ、また、タスラムの石膏の破片で視界が遮られた敵に槍兵が突撃をかけ、出だしの敵味方の士気に差をつける。そして士気の下がった敵はたちまちのうちに駱駝騎兵の餌食になる寸法である。
 このタスラム部隊の戦法は、部隊が偵察等において少数かつ単独で敵に遭遇したときにも有効であり、タスラムを投げた後、歩兵自身が素早く抜刀して斬り込めばよく、数で不利な場合は逃走の生存率が著しく高まる。
 駱駝騎兵を率いるのはヤルバガ・シャアバーン、ワリィ・シャアバーンの兄弟である。さらにその後ろに精鋭のアジャール騎馬隊がずらりと並んだ。
 そして、それらを援護する者として火砲ザッラーカを装備した駱駝騎兵を各所に配置した。
 アジャリアは、本陣の天幕ハイマから出て、革盾アダーガの柄を立て悠然と椅子に座った。

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2019年1月9日水曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_13

 ついにバラザフ達の近侍ハーディルを含めたアジャリア本軍がハラドから出撃した。この行軍の課程でサバーハ家、メフメト家の援軍と合流する手筈になっている。このためアジャリアは、部隊の行軍の歩を遅くするように指示した。
 一方サラディン・ベイはアジャール側のアラーの街トルキ・アルサウドが横合いから奇襲してくるのを警戒しながら、補給部隊に五万の兵をつけて行軍の途中に残した。アルクラーヤットの街を前線までの補給線を繋ぐ基地として、本体はネフド砂漠に進んだ。そこから一週間かけてジャウフに到達。サラディンはまた部隊を少しジャウフに残して、本体の八万の兵を西南西のタブークに移動させ、ここを押さえた。もし先にアジャリアが兵を回してタブークを占拠すれば、ジャウフのベイ軍はハイル、アラー、そしてこのタブークの三方を囲まれる形となり、後ろへ退却する他なくなるからである。
 これとは逆にアジャリアは本体を今居るハイルから北西のラフハーに遷した。ハイルとアラーの街を連携させるには道は二つ。ジャウフを通るか、ラフハーを通るかである。ジャウフはベイ軍の占領下にあるため、アジャリアの方はラフハーを押さえねばならなかった。ラフハーに至り、アラーの街に配備していた兵を併せると、アジャール軍の兵力は二十万にまで増えた。
 近侍ハーディルというアジャリアの傍近く居る勤めによって、バラザフはアジャール軍の軍議を目の当たりに出来た。父エルザフ、エドゥアルド、ズヴィアドなどの重鎮たちがアジャリアの宿営所頻繁に行き来して、得られた情報を元に少しずつ策を練り上げている。
 大略としてアジャリアは稲妻バラクを用いると決めた。ラフハーの街から出て陣を布く事にしたのである。稲妻バラクと聞いてバラザフは、自軍が敵軍に対して稲妻のように襲いかかるのを想像したが、実際のこの戦術は稲妻バラクが戦場を横断するように自軍が配置され、横に拡がった自軍によって敵を包囲するものである。横一列に兵を並べるのではなく、列を違えて配列する故、その形状が稲妻バラクのようになる。
 最前列に槍兵が違えに並び、その後ろに駱駝騎兵が配置されている。灼熱の砂漠で速やかに移動出来るのが駱駝騎兵である。馬よりも重量に耐性があり、人も荷物も同時に運べるという利点がある。槍兵で敵を防ぎ、頃合を見て槍兵の間から駱駝騎兵が突撃をかける。ここまでは一般的な軍容である。

※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

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2019年1月8日火曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_12

 エドゥアルドが自分の指揮部隊に戻った後、鞘から抜いた諸刃短剣ジャンビアを両手に握り、振ってみた。自然と身体が動き、刃は軽く空を裂く。バラザフは両手で武器を持つこの戦闘体形が気に入った。
 が、いくら武器であるとはいえ、さすがにアジャリアとエドゥアルドから貰った諸刃短剣ジャンビアを血で穢すわけにもいかない。父に貰ったもう一つの諸刃短剣ジャンビアを握ってみる。父には申し訳ないが、これならば実戦で用いるのに勿体無いという事もなかろう。
 バラザフは配下の兵士を呼ぶと、
「済まないが、出撃までに急いで諸刃短剣ジャンビアを一本用意してきてくれ」
 と、金を渡して遣いに出した。
 父エルザフから与えられた物、アジャリアとエドゥアルドから下賜された物、そして父の物に対にするために自分で用意した物と、都合四本の諸刃短剣ジャンビアを帯びる事となり、バラザフの腰回りはすこぶる賑やかなものとなった。

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2019年1月7日月曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_11

 後憂を安んずるべくアジャリアは、今までのクウェートのサバーハ家との同盟に加えて、オマーンのメフメト家と同盟を結んだ。
 これらの同盟はアジャリアにとっては、リヤド、ブライダー方面への侵攻を容易にするという効果をもたらし、メフメト家のカウシーンにとっては自分の領地であるオマーン地方の支配体制の強化に力を注げるようになった。
 アジャリアはネフド砂漠方面へ、カウシーンはアルカルジへと領土拡大の食指を伸ばしていったために、両者とも義人サラディンの討伐対象となっていたのである。
 サバーハ家のファハドの方は、これまで何かと対立の絶えなかったメフメト家と同盟が成立した事で、アジャリアと同じく後顧の憂いがある程度解消されたため、バグダードを経由する道からエルサレムやベイルートへ進出が可能になった。彼にとってはその道こそが、冥府に繋がる道となるのだが、もう少し先の事である。
 アジャール軍とベイ軍の最初の戦端が開かれたのは八年前、カーラム暦では975年の事である。その後、繰り返された両家の和平と戦争の歴史は、カーラム暦983年夏、サラディン・ベイが十三万の兵を率いてカイロを進発し、新たな戦いの頁が書き加えられようとしていた。
 ハラドのアジャリアは、この報せを日を置かずして掴んだ。
「めでたい。バラザフもついに初陣の日が来るとは」
 出撃の朝、そう声を掛けてきたのはアジャリアの弟エドゥアルド・アジャールである。
「兄者……いや、アジャリア様より成人の諸刃短剣ジャンビアを下賜されたと聞いた。私からもこれを贈りたい」
 出撃の前の物々しい隊列から少し離れた場所で、エドゥアルドはバラザフに諸刃短剣ジャンビアを手渡した。柄には孔雀石マラキート象嵌ぞうがんが施されている。
孔雀石マラキートは戦場で神の加護が得られると聞く。仲間の援けも即ち神の加護だ。わかるな?」
「はい!ありがとうございます、エドゥアルド様!」
 素直に喜びを顕わにするバラザフ。アジャリアから貰ったときも勿論嬉しかったが、エドゥアルドがくれた諸刃短剣ジャンビアが目に見えぬ重みが一段と違うようにバラザフに感じられた。
 憧れのアジャリア様が自分の師であってくれたなら。バラザフはそう願っていた。だが、自分にとっての師はやはりエドゥアルドなのである。エドゥアルドで弟子で良かったと、真に心の底から思えた。
「そうだ、バラザフ。シェワルナゼ殿からもお前に言伝がある」
「ズヴィアド様は何と」
「いつまでも教えを守るだけでは一人前にはなれん。だが、此度の初陣ではまだ教えを離れるな、との事だ」
「この戦いの先も見据えた言葉に思えますが……」
「うむ……」
 この戦いは間違いなく激しいものとなる。自分もズヴィアド・シェワルナゼも生きては帰れぬやもしれぬ。この言伝もズヴィアドのバラザフへの遺言としての意味が強かろう。それが分かりすぎるエドゥアルドだったが、手塩にかけて育ててきた、しかも初陣を控えた目の前の若者に、全てを伝えきる事は躊躇ためらわれた。
「先ずはこの戦い、必ず生き延びるのだぞ。お前の武運を祈る」
 そう言いながら、馬に跨り駆けて行くエドゥアルドの背中をバラザフは見送った。まだ戦場を知らぬ若者の目には、その後姿はこの上なく頼もしく映った。

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2019年1月6日日曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_10

 アキザフの言葉に示されているように、シルバ家には戦いで負けても自決する者は一人もいなかった。食える物は何でも食う。自尊心を棄てる。合理的判断によって自尊心をかなぐり捨てるのである。
 過去にアキザフ、バラザフの父エルザフはアジャリアの父親のナムルサシャジャリと戦い、負けている。その際にもエルザフは死を選ばず、リヤドからブライダーを経てジャウフ辺りまで逃げ延びて巻き返しを図ったのだった。
 エルザフの「死なぬ覚悟」は功を奏した。一時期砂を噛んだシルバ家はアジャリアが父ナムルサシャジャリを追放したアジャール家でアジャール陣営に属する事となり、現在のシルバ家が再興出来たのである。
 死なぬ覚悟というシルバ家の家風は、エルザフからバラザフへ、さらにバラザフの子サーミザフ、ムザフへと、その血と共に伝えられてゆくことになる。
「我らはそれぞれ別々の出撃となる。シルバ家の若造の初陣ではなくアジャリア様の近侍ハーディルとしての初陣を果たせ」
「はい」
 次の朝、アキザフは父エルザフ、弟でありバラザフにとっては二番目の兄であるメルキザフと出征していった。バラザフはアジャリア本軍に所属して家族等とは一日遅れてハラドを発った。
 ネフド砂漠におけるアジャリア・アジャールとサラディン・ベイの対戦は此度で四度目となる。
 先年までアジャリアはネフド砂漠周辺の領有を巡ってネフドの勇者タラール・デアイエと激闘を繰り広げていた。タラール・デアイエはアジャリアに敗れた後カイロへ逃れ、ネフドの首長達も中心であるタラールに倣うように、皆サラディン・ベイを頼る形となった。
 そして義人サラディンはこれらの救済のため、アジャール家討伐の兵をネフド砂漠まで繰り出すようになり、現在の両家の対立構造に至る。

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2019年1月5日土曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_9

 出撃までまだ少しだけ時がある。バラザフはアジャリアから出撃命令が出た晩、シルバ家の当主となった長兄アキザフ・シルバの所へ顔を出した。十歳以上離れた兄はバラザフの目から見ると実に堂々としたもので、悠然と彼の前に座っている。その実力を裏付けるように長兄アキザフは父エルザフの片腕として、すでに部隊長の地位に在った。
「めでたい。あの幼かったバラザフもついに初陣の日が来るとは」
 そう笑み浮かべたアキザフの目は、弟の姿に自分の幼き過日を見た。目の前のバラザフと十数年前の自分が重なっていた。
「だが喜んでばかりはいられん。近侍ハーディルの任務はアジャリア様の周辺防御。普通の若手の初陣のように形だけの出陣というわけにはいかぬからな」
「心得ております」
「バラザフはいつもズヴィアド・シェワルナゼ殿から教練を受けているそうだな」
「はい。戦いの他にも城邑アルムドゥヌの建築手順も教わっております」
「偵察中に間者に遭遇したとか」
「逃げられそうになって咄嗟に仕留めましたが、生け捕りに出来ませんでした……」
「手練の者を相手にして命を取られなかった事を喜ぶべきだな」
「兄上、俺は未来を視る眼が欲しい。先を読む事さえ出来れば全てにおいて仕損じる事はない」
「ならばこの戦いが終わってから父上に相談してみるといい。父上ならお前に道を示してくれるだろう」
「はい」
 バラザフの希求を予想していたかのように、アキザフはこれに対して即座に応えた。
「お前も知っている通り、シェワルナゼ殿はアジャリア様に仕官する以前は、各地を巡って色々な経験をされている。この戦いでもおそらく軍師の一人として出撃することになろう。シェワルナゼ殿の手腕を実戦で見てみる事も必ずお前の役に立つはずだ」
「はい」
「死ぬなよ、バラザフ。エドゥアルド様からも教わっていようが、野牛ジャムスのように突撃するだけでは無駄に命を落とすだけだ。死なぬ覚悟が要る」
「死なぬ覚悟……」
「そうだ。近侍ハーディルとしての自分の任務は大事。そして自分が死なぬ覚悟も同じくらい大事なのだ。たとえ戦いに敗れて屈辱を味わおうともな」
「はい! 命を粗末にしない事を誓います」
 弟の引き締まった顔付きに満足げに頷く兄アキザフであった。

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2019年1月4日金曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_8

 辺境で起きたこの小さな衝突から時をおかずして、アジャール軍全体にネフド砂漠へ進撃する指令が出された。
「サラディン・ベイ、カイロを進発。先陣は間もなくネフド砂漠北に到着する模様!」
 との急報をアラーの街太守トルキ・アルサウドから受けての事である。
近侍ハーディルの者らも全てわしと共にでよ!」
 まだ戦場を知らぬわか近侍ハーディル達にもアジャリアより出撃命令が出た。まさに彼らの初陣である。

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2019年1月3日木曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_7

 幼少の頃よりバラザフは常に行いに慎重で軽率な言動は避け、また言葉数も少なかった。子供には、大人からこの川は溺れるから入るな、と言われると余計に行ってみたくなる心が湧く。だが、バラザフにしてみると周りの子供たちのそういった心理は無意味なものに感じられた。
 ――ここは溺れる、危ない。
 バラザフにとってはそれは自分が経験せずして前もって得られた「情報」である。先を知るための情報が得られたのに何故それを無駄にするのか。
 そうした幼い頃の思慮の糸が、今の近侍ハーディル時代のバラザフに繋がり、さらに未来の謀将バラザフ・シルバへ延長してゆく。
 バラザフの父はアジャリアの家臣の一人で、智勇兼備と称されるエルザフ・シルバである。バラザフはエルザフの三男として生まれ、アジャリアに近侍ハーディルとして才能を認められる事になるが、アジャリアと縁故を得るきっかけは、彼がシルバ家からアジャール家への人質としてハラドへ送られてきたことによる。
 バラザフを含めた近侍ハーディル朋輩達は、アジャリアの子カトゥマル・アジャールが領主になる頃には、各々、部隊長にまでは出世する将来が約束されている。つまり彼らは未来のアジャール家を支える柱となる若者たちなのである。

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