翌朝、突如アジャリアから全軍命令が発せられた。
「バーレーン要塞の包囲を解除。島に渡った兵も撤退させよ。ハサーまで戻るぞ」
転進に転進でバラザフですらアジャリアの意図が分からなくなりかけていた。そこへアジャリアはハサーに向うと言うのである。
「何故、ハサーなのか。どうしてサラディン・ベイのバーレーン要塞をなぞるのだ」
アジャリアについて軍略を学び、模倣して、バラザフの中でアジャリアの思考の型が出来上がりつつあった。アジャリアであれば、サラディンと同じ轍を踏むまいとするはずではないか。
バラザフが周囲に飛ばしているフートの配下からは、楽観視出来ない情報がいくつも集まってきている。
これらをまとめると、バーレーン要塞を包囲するアジャール軍を挟撃するために、ハサーやダンマームなどの各城邑
が援軍が集まりつつある、という事になった。
「すでにアジャリア様は知っているだろうが伝えておくべきだろうか」
遣いのために弟のレブザフを呼ぶと彼は伝えるべきでないと言い出した。
「すでにアジャリア様もこの情報を入手しているならば、わざわざ伝える必要はありません」
「なぜそう思う」
「シルバ家が必要以上にアジャリア様から警戒されるからです。もはや我等が使える事を家中に誇示して地位を上げる時期ではないかと」
「うむ……」
レブザフの言葉にバラザフは考え込んでしまった。レブザフの考えには一理ある。父エルザフがアジャール家に臣従した当時であれば実力を誇示し、居場所を作っていく必要があったが、今のアジャール家中でのシルバ家の地位を考えると、レブザフの言うとおり主家から睨まれないように身を屈める場合も確かにある。アジャリアの言動を見るに、今情報を上げねば進退窮まるというものでも無さそうではある。しかし――、
「やはりカトゥマル様の耳には入れておこう」
カトゥマルの口から出た情報であれば、アジャリアにシルバ家が警戒される事もないだろうし、もしこの情報が手柄になればシルバ家の働きを後からカトゥマルが認識すれば良い事になる。知己のカトゥマルでれば、その辺の事は酌んでくれるはずだとバラザフは判断した。
――アジャリアが包囲を解いてハサーに向う。
この情報を持って、メフメト軍のアサシンであるシーフジンがバーレーンにすぐに走った。
「アジャリアはまたハサーに戻るだと?」
すでにハサーなどからこちらへ援軍が向けられている。シアサカウシンは、これがアジャール軍を包囲して殲滅出来る好機と判断した。
「九頭海蛇
を揚げる大網を仕掛けてやろう!」
ハサー、ダンマーム等々、今までの戦いで手も足も出ず押さえ込まれた反動から、バーレーンの守備兵等は退却していくアジャール軍を、指示なく熾烈に追撃した。シアサカウシンにもこれを制止するつもりは無い。
アジャール兵達は追いすがる敵に対して後退攻撃し、あるいは後ろ手に武器を振って、よく逃げ切った。
※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。
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「何故、ハサーなのか。どうしてサラディン・ベイのバーレーン要塞をなぞるのだ」
アジャリアについて軍略を学び、模倣して、バラザフの中でアジャリアの思考の型が出来上がりつつあった。アジャリアであれば、サラディンと同じ轍を踏むまいとするはずではないか。
バラザフが周囲に飛ばしているフートの配下からは、楽観視出来ない情報がいくつも集まってきている。
これらをまとめると、バーレーン要塞を包囲するアジャール軍を挟撃するために、ハサーやダンマームなどの各
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遣いのために弟のレブザフを呼ぶと彼は伝えるべきでないと言い出した。
「すでにアジャリア様もこの情報を入手しているならば、わざわざ伝える必要はありません」
「なぜそう思う」
「シルバ家が必要以上にアジャリア様から警戒されるからです。もはや我等が使える事を家中に誇示して地位を上げる時期ではないかと」
「うむ……」
レブザフの言葉にバラザフは考え込んでしまった。レブザフの考えには一理ある。父エルザフがアジャール家に臣従した当時であれば実力を誇示し、居場所を作っていく必要があったが、今のアジャール家中でのシルバ家の地位を考えると、レブザフの言うとおり主家から睨まれないように身を屈める場合も確かにある。アジャリアの言動を見るに、今情報を上げねば進退窮まるというものでも無さそうではある。しかし――、
「やはりカトゥマル様の耳には入れておこう」
カトゥマルの口から出た情報であれば、アジャリアにシルバ家が警戒される事もないだろうし、もしこの情報が手柄になればシルバ家の働きを後からカトゥマルが認識すれば良い事になる。知己のカトゥマルでれば、その辺の事は酌んでくれるはずだとバラザフは判断した。
――アジャリアが包囲を解いてハサーに向う。
この情報を持って、メフメト軍のアサシンであるシーフジンがバーレーンにすぐに走った。
「アジャリアはまたハサーに戻るだと?」
すでにハサーなどからこちらへ援軍が向けられている。シアサカウシンは、これがアジャール軍を包囲して殲滅出来る好機と判断した。
「
ハサー、ダンマーム等々、今までの戦いで手も足も出ず押さえ込まれた反動から、バーレーンの守備兵等は退却していくアジャール軍を、指示なく熾烈に追撃した。シアサカウシンにもこれを制止するつもりは無い。
アジャール兵達は追いすがる敵に対して後退攻撃し、あるいは後ろ手に武器を振って、よく逃げ切った。
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