同刻、オクトブートと呼ばれるアサシンが疾走する者を一人発見した。このアサシンは蛸
のように投げ網で標的を捕獲する業を持っているのでその名で呼ばれる。
オクトブートの目に捕捉されたのは、言わずと知れたシーフジンで、バーレーン要塞に向けてバヤズィトより伝言を命じられた彼である。
オクトブートにとっては捕捉は即ち捕獲を意味する。その目で捕捉して網から逃れた者はいまだ居ない。網を構成する主たる綱に支線の綱が幾つも派生していて、逃れられない仕組みになっている。
捕らえたならば標的の生殺與奪はオクトブートが握る。標的捕縛の命が出ていれば獲物は上に差し出されるが、そうでなければ蛸
の足に捕まった獲物はその場で餌食になる。
――これは!
シーフジンが気付いた時にはすでに蛸
の足は視界いっぱいに広がり彼を包み込もうとしていた。
オクトブートの網は完全に獲物を捕らえた。が、網を引き締めて手繰り寄せようと引いた彼に手には、網の中の獲物の重さが全く感じられなかった。
「消えた……?」
網が投げられた瞬間まで獲物が居た
場所には、青い煙が漂い、そしてもう薄れて消え行こうとしている。
「シルバアサシンだな」
捕らえられたはずのシーフジンは少し離れた所に現れ、地に足を着けた。オクトブートはシーフジンの問いには答えず、
「シーフジンだな。今確かに捕らえたはずだが、やはりシーフジンの捕獲は困難だというのは噂どおりだな」
その言葉が終わらぬうちに、シーフジンに再度網を投げかけた。網の捕縛が収束しシーフジンに絡み付こうとする。が、シーフジンもまた先ほどのように捕まる瞬間にその身を煙と化し、捕縛を逃れ、また出現した。
「今、お前が言った通りだ。我等シーフジンの捕縛は困難、いや不可能と知れ」
「捕縛出来ぬなら消えてもらうしかあるまいな」
オクトブートは今度も言葉を仕舞わずシーフジンに網を投げた。シーフジンもこれまた同じように煙となって姿を消す。同じ手で捕縛し損ねるオクトブートだが、狙いは次の刹那にあった。
シーフジンが姿を現し始める場所を見定めると、短剣を抜いて強く踏み込んだ。
「消えてもらうと言っただろう」
オクトブートの短剣はシーフジンの心の臓を刺し貫かんとする寸前で、手首を捕まれ、血を滴らせている。止めを刺す力を込め、圧し切った刃がシーフジンの胸を貫いた。ところが絶命してその場に斃れるはずのシーフジンは、あの青い煙となって姿を薄れさせてゆき、今度は現れる事はなかった。
「煙のように掴めない輩だ。モハメドは配下を本当に魔人
に変えてしまうとでもいうのか」
オクトブートは確かに血のついた短剣を見つめるも、今起きた不可思議に、この世ならざる物を感じざるを得なかった。そして、そう感じた彼自身も報告のためその場から姿を消した。シーフジンにしてもシルバアサシンにしても、バラザフが彼らを同門
と表現したように、世人の働きとは隔絶された異能の世界に生きる人外なのである。
※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。
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オクトブートにとっては捕捉は即ち捕獲を意味する。その目で捕捉して網から逃れた者はいまだ居ない。網を構成する主たる綱に支線の綱が幾つも派生していて、逃れられない仕組みになっている。
捕らえたならば標的の生殺與奪はオクトブートが握る。標的捕縛の命が出ていれば獲物は上に差し出されるが、そうでなければ
――これは!
シーフジンが気付いた時にはすでに
オクトブートの網は完全に獲物を捕らえた。が、網を引き締めて手繰り寄せようと引いた彼に手には、網の中の獲物の重さが全く感じられなかった。
「消えた……?」
網が投げられた瞬間まで獲物が
「シルバアサシンだな」
捕らえられたはずのシーフジンは少し離れた所に現れ、地に足を着けた。オクトブートはシーフジンの問いには答えず、
「シーフジンだな。今確かに捕らえたはずだが、やはりシーフジンの捕獲は困難だというのは噂どおりだな」
その言葉が終わらぬうちに、シーフジンに再度網を投げかけた。網の捕縛が収束しシーフジンに絡み付こうとする。が、シーフジンもまた先ほどのように捕まる瞬間にその身を煙と化し、捕縛を逃れ、また出現した。
「今、お前が言った通りだ。我等シーフジンの捕縛は困難、いや不可能と知れ」
「捕縛出来ぬなら消えてもらうしかあるまいな」
オクトブートは今度も言葉を仕舞わずシーフジンに網を投げた。シーフジンもこれまた同じように煙となって姿を消す。同じ手で捕縛し損ねるオクトブートだが、狙いは次の刹那にあった。
シーフジンが姿を現し始める場所を見定めると、短剣を抜いて強く踏み込んだ。
「消えてもらうと言っただろう」
オクトブートの短剣はシーフジンの心の臓を刺し貫かんとする寸前で、手首を捕まれ、血を滴らせている。止めを刺す力を込め、圧し切った刃がシーフジンの胸を貫いた。ところが絶命してその場に斃れるはずのシーフジンは、あの青い煙となって姿を薄れさせてゆき、今度は現れる事はなかった。
「煙のように掴めない輩だ。モハメドは配下を本当に
オクトブートは確かに血のついた短剣を見つめるも、今起きた不可思議に、この世ならざる物を感じざるを得なかった。そして、そう感じた彼自身も報告のためその場から姿を消した。シーフジンにしてもシルバアサシンにしても、バラザフが彼らを
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