2019年8月25日日曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第3章_10

 戦いの趨勢の決まったジュバイルで、太守が降伏を受け入れるまで時を要せず、アジャール軍はジュバイルの城邑アルムドゥヌ を押さえ、この領域を手中に収めた。
 ジュバイルをアジャール軍の城邑アルムドゥヌ として機能させるための事務作業に勤しむバラザフにレブザフが寄って来て、
「例えばですよ、兄上。あそこでこちらの弓兵を城壁のすぐ傍に置いて、ほぼ真上に矢を射させれば、盾兵を越えて城内を攻撃出来たのでは」
 と問うた。
「向こうにも弓兵が居ただろう。盾を退かせて再び奴等が前に出てきたら、間近の良い的になるだけだ」
「なるほど。私が迂闊でした」
 とレブザフは軽く笑った。まだまだ自分は兄の兵術には及ばぬながら、己を知り少し成長出来たという嬉しさと、兄の知恵を頼もしく思う気持ちとがそこにあり、充実して自分の作業の持ち場に戻っていった。
 兄と比べてレブザフの死線をくぐり抜けるような場数はまだ少ない。だが、身近に理想的な手本が居る事と、自身への客観的な照顧と、吸収の良さが、彼を最短距離で謀将としての道を走らせている。

※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

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2019年8月15日木曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第3章_9

 城壁を一周投槍ビルムン 隊をで囲わせたバラザフは、槍を投げさせずに、まず、
「弓隊は城壁の盾兵を狙え!」
 と命じ、サッタームの部隊もこれに倣った。
 城壁の上では弓兵が一旦退き、盾兵がそれらを守るように、また城壁から矢の雨を中へ越えさせないように、盾を構え不動の姿勢で脚に力を入れている。
 矢の雨が悉く盾で弾かれ、味方に徒労感が漂い始めた時、
「よし。投槍ビルムン で盾を狙え!」
 と、投槍ビルムン 隊に指示が出た。
 強肩の投槍ビルムン 隊が助走をつけて投槍ビルムン を投げ始める。城壁の上では盾に鋭く尖った長柄の投槍ビルムン が突き刺さって兵が盾を動かせなくなっていた。先に弓兵によって射掛けられ、これを防ぐ癖を付けられた盾兵は、投槍ビルムン に対して敏捷に反応出来なくなっていたのである。
「弓兵、また出番だ。今度は敵の盾兵を避けて矢を流し込め!」
 矢の雨が降ってきた城内では混乱が起きていた。
「城内の兵に告ぐ! アジャール軍は手向かいせぬ者は傷つけない! 開門すれば血は一滴も流されぬであろう!」
 アジャリア効果で怯えていた所へ、矢の雨を食らってさらに恐慌した敵兵に内応する者が出て、ジュバイルの城邑アルムドゥヌ の門扉は開かれた。
「もはや抵抗は意味を成さぬ! 今、投降すれば助命は約束する!」
 城門の広場でバラザフは声を張り上げて叫んだ。

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2019年8月5日月曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第3章_8

 隠密タサルール を用いた「アジャリア効果」は、予想以上に高かった。サッタームの部隊の兵等の吶喊は天を衝いた。
 ――アジャリア・アジャールが来た!
 それだけで守備兵の手足は強張り、腰は引けた。どんな卑劣な手で謀殺されるか分ったものではない。
 圧倒的士気の差でカフジを陥落させたサッタームは、兵を分割してベルシャ湾を南下してそのまま二、三の城邑アルムドゥヌ を落としてある程度補給線を繋ぐ事が出来た。
 南下を続けた部隊はジュバイルの城邑アルムドゥヌ の攻撃に入った。サッタームの部隊に連動して移動していたバラザフは反対側に回り攻城に加わった。
 城壁の上に並ぶ守備兵を見てバラザフは、これまでと少し違う事に気付いた。弓兵の間に盾兵を配備している。こちらの弓隊からの攻撃から城内を守る狙いがあるようだ。
「レブザフ、投槍ビルムン を用意させろ」
「おお、使う場面が出てきたのですね」
「うむ。一つ思いついたから試してみたい」
 レブザフは、 荷隊カールヴァーン から投槍ビルムン を手配し、強肩の者を部隊から百名程選んで投槍ビルムン 隊を編成した。

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