2019年1月25日金曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_29

 朝にベイ軍の色だったネフド砂漠は、今アジャール軍の色となっており、これで勝ったのだとバラザフは思った。すでにあちこちから、アジャリアの音頭を待たず、勝鬨が届きて来て、いつの間にやら防衛線は掃討戦へと転じていた。
 すでに日は西の茜となっている。
 戦勝の趣を余所にアジャリアは、先程まで激戦が繰り広げられていた砂漠を言葉無く見つめていた。
 バラザフが話しかけると、アジャリアは、
 ――あの砂の上に横たわる骸の中にエドゥアルドが居る。
 という。
 さらにズヴィアドも戦死したと聞かされた。あの数多の骸の中から二人を捜し出すのは至難であり、彼らはこのまま砂に埋もれて、干からびて骨となっていくしかない。
 二人の死を聞いたバラザフの目には不思議と涙は浮かんで来なかった。事があまりに重すぎた。胸の奥が痛すぎる。
 悲嘆の壁がバラザフの四方を覆って、目に映る全ての物の色を奪った。
 ――いっそ涙が一滴でも零れ落ちてくれれば、砂に哀悼が浸みて二人に届くかもしれないのに。
 あまりに受け容れ難い現実だ。アジャリアのもとに寄せられたのが虚報ではなかったのか。そう思いたい。
 エドゥアルドとズヴィアド。二人はバラザフにとって偉大な師であり、目指すべき標であった。成人したばかりの子供の心が抱えるにはこれらの死はあまりに重過ぎた。
 バラザフの手の中で、今はエドゥアルドの形見となってしまったジャンビアの重みが増した。
 バラザフにとっても、主君アジャリアにとってもエドゥアルドの死は大きく、アジャール軍にしても戦勝の代価としては過重な事となった。それはズヴィアドの死とても同じで、アジャール軍の軍制にも将兵の心にも大きな穴を穿つ戦争だった。

※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

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