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2019年1月14日月曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_18

 近侍ハーディルであるバラザフ達は、これらの軍議の流れを全て経験する事が出来、アジャールという家の名を自ら名乗っている「アジャリア」に尊敬の念を新たにした。
 また、アジャリアだけでなく自分の師のエドゥアルドとズヴィアドの大局眼が確かであるという思いも更に強くなった。相手がサラディン・ベイでなければ、やはり彼らの進言が正しいはずだとバラザフは思う。
 アジャリアが危惧した通りベイ軍は、駱駝部隊がタブークに到達する前に動き出した。これを報せて来たヤルバガ・シャアバーン、ワリィ・シャアバーン兄弟の駱駝部隊が、丁度タブークの背後に回るため迂回を取っていた時である。
 アジャリアは、先の作戦通り挟撃の前後で呼応するようアラーの街を進発した。ベイ軍配下に置かれているジャウフの町を北へ迂回する形を取った。アラーの街を出てからここまでで五日。おそらく明日にはベイ軍本隊と相見える事となろう。
 今、アジャール軍は、ハイル、ラフハー、アラー、そしてアジャリア本隊で戦場に弧を描くような陣容となっている。ベイ軍ほ包囲は出来上がりつつあった。

※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

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2019年1月13日日曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_17

 奇襲であれば当然敵に気付かれてはならない。行軍の砂煙が敵に発見されればすでにそれは奇襲ではなくなるから、晴れ渡った日は避け、行軍速度もぎりぎりに近づくまでは緩慢にせねばならない。
 つまりは、ただでさえ時間が掛かりすぎる上に、天候によって奇襲および、追い立てられたベイ軍がこちらまで到達する時が左右される。機がずれてしまえば前後で呼応して挟撃するのは難しい。
「駱駝騎兵がタブークに着くまでに敵の増援が来ないとも限りません。そうなればタブークからベイ軍を追い出すどころか、街で持ちこたえられ、最悪奇襲部隊そのものが捻り潰されてしまいます」
 ここまで軍議を黙って聞いていたエドゥアルド・アジャールも、ここで、
「首尾よくタブークからベイ軍を追い出せたとしても、まっすぐこちらに向かってくるかどうか。途中でサラディンの本隊が転進すればこの挟撃は失敗に終わる……」
 と、ズヴィアドの説に言葉を加えた。
 軍議に参加する諸将は、一瞬どよめいたが、やがてエドゥアルドとズヴィアドの言葉に納得したかのように、言葉が止んだ。
 こうして軍議に参加する諸将の方向が、概ね驚蛇作戦反対論に流れていったところで、主将アジャリアが初めて口を開いた。
「エドゥアルドとズヴィアドの意見もよくわかる。普通の相手ならばわしもこの策は採択しなかったであろう。だが……」
 アジャリアは一息ついて、
「わしは、サラディンは必ず来ると思う。サラディンはわしがネフドから追い出した者等の命運を背負っている」
 アジャリアは続ける。
「義理に生きる者は計算では動かん。使命感、義侠心、そういったものは損得ではないのだ。サラディンは必ず来る……」
 結局、このアジャリアの言葉で軍議は決まってしまった。
「アラーの街を出てネフド砂漠まで進み出よう。そこで稲妻バラクでベイ軍を包囲殲滅するのだ。ラフハーに駐在するハリティとシルバにも街から出てベイ軍を包囲できる位置に動くように伝えろ」
 アジャリアは全体に指示を出した後、トルキ・アルサウドには、
「アラーの街を守るのがお前の役目だ。ジャウフに居残っているベイ軍の動きを見張れ。驚蛇作戦でベイ軍が敗走してジャウフに逃げ込むようであれば、急いで駆けつけて掃討せよ」
 と、命じた。
 ネフド砂漠を盤面として、ベイ軍を完全に包囲出来るようにアジャリアは確実に駒を配置していった。ラフラーとハイルの街を連携するアジャリア本隊、タブークに奇襲をかける駱駝騎兵、温存するアラーの街のアルサウド部隊の三方から包囲しつつ、サラディン本隊と後方の連携を断つ事も出来る。進言された驚蛇作戦にアジャリア自身が一厘を加え、より作戦の完成度を高めたのである。
「シャアバーン」
「はっ」
「作戦開始までタブークから目を離すなよ。僅かに機がずれただけでもこの挟撃からベイ軍は漏れる。先に向こうが動き出す事があってはならない」
 そこから先はアジャリアは言わなかった。作戦通りに現実が動いているのか機に臨んでいれさえすればいい。機が派生した先には無限の未来が枝分かれする。ずれてしまった時に大将でであるアジャリアが判断すればよいのだ。

※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

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2019年1月11日金曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_15

 アジャリアにはエドゥアルドの下にもう一人弟がいる。サッターム・アジャール。彼は容貌がそっくりである事からしばしばアジャリアの影武者コプシュフィダウンに扮する。此度もアジャリアの周りを固める血族等の中に彼は潜んでいた。危機が迫った時に速やかにアジャリアに成り代わる為である。
 当然、バラザフは近侍ハーディル達と共にアジャリアを護る形で、本陣の前に配置された。
「気合が十分過ぎて全く仕方が無いな」
 そう震えながら言うのはバラザフの隣のナウワーフ・ハイブリである。
「バラザフもそうだろ?」
 そう言うナウワーフにバラザフはにやりと返した。だが目は全く笑っていない。脂汗も滲んでいる。
「他の者も同様のようだ。こんな高揚感は戦場じゃないと感じられないからな」
 答えながら、バラザフは近侍ハーディルの他の同僚を見遣った。バラザフの言葉通り皆、自らの気合で・・・で震えている。近侍ハーディルといえども戦場では一人の新兵なのだ。勿論、近侍ハーディルとして普通の兵士よりも権限はある。だが、斬られれば身分の別け隔てなく生身の肉体から血が流れて死ぬ。戦場で死は平等だ。
「よし、俺はもう死んだ」
「なに?? 恐怖で頭がいかれたのか、バラザフ」
「もう俺は死んだんだ。だから死ぬのは怖くない。そして今、生まれ変わった!」
「なるほど! ならば、俺も今死んだ」
 平時であったなら、意味すら成さぬ会話であったろうが、今の高貴なる新兵たちにとっては、戦場での助けとなった。
「邪魔な気合が抜けたな」
「気合が抜けては困るがな。楽になった」
「ああ、楽になったな。死ぬ気がしない」
 このバラザフとナウワーフのやりとりを見ていた他の近侍ハーディルたちも同様に、口々に死んだ、死んだとやりだした。近侍ハーディルたちは俄かに、皆、自分達こそが冥府帰りの無敵部隊だといわんばかりの、奇妙な自信に包まれた。
 この三日後、アジャリアは本陣の移動を決めた。ラフハーには太守としてアブドゥルマレク・ハリティに三万の兵をつけて残し、本体をアラーの街に動かす事にした。
「ハリティ様の役割は、ベイ家が占拠するタブークへの睨み、ということらしい」
 ナウワーフが仕入れたての情報を早速バラザフに持ってきた。ラフハーに置かれるハリティ部隊にバラザフの父と兄もいる。父エルザフはハリティ部隊の参謀を任された。

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