月が落ちた――。今この世界は闇である。夜が明けたら、おそらくベイ軍との戦いが始まる。この作戦の要点は勿論挟撃にある。ベイ軍をなんとしても稲妻 で迎え撃ちたいアジャリアは、夜間の内に軍を横に展開させておく事にした。
予め雇い入れておいた暗闇を視る事が出来るアサシン達に先導させ、大まかに兵員を配置した。これならば日が出ればすぐに稲妻 に陣容を遷す事が出来る。バラザフ達、近侍 もアジャリア本隊に付いて移動した。
一方、サラディンの方もアジャール軍との激突が近づいている事を霊的直感で感じ取っていた。タブークの街を出てきたの奇襲を危惧しての事もあるが、自分達が駐屯すれば街が戦火で焼かれて、無辜の民が投げ出されてしまう事にもなるので、義に生きるを貫くサラディンとしては、そのような無意味な悲劇はなんとしても回避したかった。
そもそも、慈悲心や義侠心で始めたこの戦いで、民を苦しめてしまっては、サラディン自身の義が立たないという事になる。
少し遡れば、タブークを奇襲するはずであったシャアバーンの駱駝騎兵部隊は、部隊に所属するアサシンを出してサラディンの動向を窺わせていた。だが、サラディン側が動き出すにあたり、向こうもアサシンを動かして、シャアバーンのアサシン達を残らず駆逐していったのである。結果、シャアバーン達がベイ軍の動きを把 み、アジャリア本隊に報せる事が出来たのは、丁度ベイ軍の後詰がタブークを出た時となった。
サラディンがタブークを出ると決めてから、後詰の出動が完了するまで、僅か一刻。平時におけるベイ軍の練兵の熟達のほどが窺える。
サラディン・ベイは無敵の将、徳高き義人であると同時に、敬神の情篤き男である。目に見えざる世界からの霊流を常に受けており、預言者のように言葉に顕し御文を民衆に示すという事はしなかったが、決断が生じる場面において、サラディンはしばしばその霊的直感によって進路の左右を無意識に決定していた。
そしてその直感によってアジャール軍の奇襲を察知したのである。移動に先んじて偵察のアサシン出してみれば、はたせるかなアジャール軍の密偵がこちらの動きを見張っており、情報を持ち帰らせる前に始末したという事である。
まさにここでアジャリアの作戦の糸の継ぎ目が綻び始めた。
予め雇い入れておいた暗闇を視る事が出来るアサシン達に先導させ、大まかに兵員を配置した。これならば日が出ればすぐに
一方、サラディンの方もアジャール軍との激突が近づいている事を霊的直感で感じ取っていた。タブークの街を出てきたの奇襲を危惧しての事もあるが、自分達が駐屯すれば街が戦火で焼かれて、無辜の民が投げ出されてしまう事にもなるので、義に生きるを貫くサラディンとしては、そのような無意味な悲劇はなんとしても回避したかった。
そもそも、慈悲心や義侠心で始めたこの戦いで、民を苦しめてしまっては、サラディン自身の義が立たないという事になる。
少し遡れば、タブークを奇襲するはずであったシャアバーンの駱駝騎兵部隊は、部隊に所属するアサシンを出してサラディンの動向を窺わせていた。だが、サラディン側が動き出すにあたり、向こうもアサシンを動かして、シャアバーンのアサシン達を残らず駆逐していったのである。結果、シャアバーン達がベイ軍の動きを
サラディンがタブークを出ると決めてから、後詰の出動が完了するまで、僅か一刻。平時におけるベイ軍の練兵の熟達のほどが窺える。
サラディン・ベイは無敵の将、徳高き義人であると同時に、敬神の情篤き男である。目に見えざる世界からの霊流を常に受けており、預言者のように言葉に顕し御文を民衆に示すという事はしなかったが、決断が生じる場面において、サラディンはしばしばその霊的直感によって進路の左右を無意識に決定していた。
そしてその直感によってアジャール軍の奇襲を察知したのである。移動に先んじて偵察のアサシン出してみれば、はたせるかなアジャール軍の密偵がこちらの動きを見張っており、情報を持ち帰らせる前に始末したという事である。
まさにここでアジャリアの作戦の糸の継ぎ目が綻び始めた。
※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。
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