2019年2月25日月曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第2章_31

 カーラム暦990年の終わり、新たな年が来る直前になって、アジャリアがクウェートを攻めると再び言い出した。
「前にも言ったがわしのクウェート侵攻には大義がある。サバーハ家を護るという大義がな。もたつくなよ。クウェートがフサインやらレイスやらに食われてしまう」
 と大義を表に掲げて家臣を立たせたものの、その家臣達でさえアジャリアの言葉に領土欲が滲み出ているのを肌で感じていた。が、主命であるので、アジャリアの大義を意図して好意的に受け取ってここはそれぞれ己を奮い立たせるしかない。
 家来達はこれで済むが、外部にはこうした建前は虚言としか受け取れない。
「欲を見透かされるのが分かっていて、猶大義を打ち立てようとするのが憎らしい」
 アジャリアのクウェート侵攻を見て、アジャール家のもう片方の同盟相手であるカウシーン・メフメトは苦い表情を露にした。というのも彼が見えていたのはアジャリアの欲深さのみならず、フサイン家、レイス家の対抗措置と言っておきながら、その裏で同盟し口裏を合せている。
 そしてレイス家とサバーハ家の領地を山分けした後、バシャールを追い出すなり、監禁するなりすれば、ほぼ労なくして益を得る事になる。
 アジャリア家の領土が殖えるのも気に入らなかったが、大義を旗に振って偽善を成そうとする様がカウシーンには許せなかった。メフメト家も元はと言えば、乱世の騙し合いの中でなり上がってきた類なので、人の事は言えないのだが、アジャリアのように人欲に偽善の衣を着せるような事はしたくないと、カウシーンにはカウシーンなりの矜持があった。
「シアサカウシン。アジャリアにはこれまでだと言っておけ」
 カウシーンはアジャール家とは手切れとしながら、
「ベイ家と手を組んでアルカルジ辺りを挟撃してやりたいが、あそこにはシルバの倅が入ったと聞く。全く手抜かりの無い事だな」
 とベイ家と共闘する道を探り始めた。

※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

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