2019年2月22日金曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第2章_28

 バラザフの想定とは裏腹に元アンナムル隊の面々は目立った抵抗も無く、彼の指揮に従った。アジャリアが事前に古参等を手紙で説き伏せていたのもあったが、彼等にはシルバ家を怨む大義名分は殆ど無く、寧ろ
アンナムルと争ったアジャリアの直轄にならずに済んだ事が救いといえた。父エルザフの言うとおり、口を閉ざし旗色を明らかにしなかった事が、ここに来てさらに幸いした。弟のレブザフなどは、兄バラザフの指揮力の賜物で隊の統制が取れているのだと勝手に信じきっていた。
 では、ワリィ・シャアバーンの駱駝騎兵部隊はどうか。アジャリアはこちらにも手紙を送りワリィの労を軽くしてやろうとしたのはシルバ家と同じであり、ヤルバガの指揮下にあった将兵等にとってはワリィは元隊長の弟である。この点だけを見れば駱駝騎兵が素直にワリィに従っても良さそうなものだが、隊長の弟だけにヤルバガの反乱軍、否、革命軍に従わず、ワリィが兄のヤルバガを見殺しにしたという見方も隊の中にはあり、直接ワリィに刃を向ける者はさすがにいなかったが、隊内での諍いがしばらく続き、ワリィは胸も頭も痛めていた。兄の指揮下であった将兵であるとはいえ、殆どの作戦行動を共にしてきた仲間達なのである。
 バラザフはアジャリアに成ったつもりになった。今までは主にアジャリアの指揮下にあったり、父エルザフの指示の下、シルバ家の一将として動いていればそれでよかった。だが、ここで一軍の将としての地位を与えられ、上に立つ者の責任の重圧をもろに感じているのが今日のバラザフである。アジャリアに成ったというのは大仰であるにしても、年齢に相応しくない出世は、自己の器を歪めないように大いに克己すべき蜜と毒になろう。
 こうしたアジャリアの差配はエルザフの気持ちを酌んでの事である。いかに有能であるとはえ、三男四男ではシルバ家の後継となる事はまずない。かといって、跡継ぎを廃嫡して良い程、アキザフ、メルキザフは決して無能では無く寧ろ他家では望みようもないくらい優秀なのである。問題は息子達の全員が優秀に生まれ育ってしまったために、その能力を存分に発揮させてやる場や、分け与えられる財が無い事で、家格は高くとも良き跡継ぎに恵まれないという他家が多いのを考えれば、エルザフの悩みは極めて特異なのである。
 同時にバラザフはアジャリアから城邑アルムドゥヌ を与えられた。城邑アルムドゥヌ といっても城壁は無く千人ほどの人口で四百戸を成す小さな集落である。

※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

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