2019年2月10日日曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第2章_16

 カーラム暦985年、エルザフの率いる軍が再びハウタットバニタミムを包囲した。
「さて、蒔いた種を刈り取らせてもらおうか」
 今回はハウタットバニタミムに戈が交わる音は響かなかった。城内にはこちらに内通してきた者らが居る。いうまでもなく先の和平交渉の際に渡りをつけておいた長の側近の面々である。彼らには協力の見返りとして、アジャール側へ戻った後も変わらぬ権益が保証されていた。
 エルザフの軍がハウタットに来たとき、門は静かに内側から開けられた。側近たちは長を殺さなかったものの、執務室から締め出し、執政の座から彼を引き摺り下ろしたのだった。
 ハウタットバニタミムのタミム家も、ネフドの数多の士族アスケリがそうであったように、僅か供だけを連れカイロへの砂を、嘆き憾みながら踏みしめてゆく事になろう。
 残りのタミム家の配下達、士族アスケリ達はシルバ家の管理下に置かれる事となった。
「シルバ家こそカラビヤート随一の謀士アルハイラト。味方に引き入れておいて本当に良かった。でなければ今頃落ちていたのはハラドで、アジャール家がネフド砂漠を彷徨っている所よ……」
 そのシルバ家の一族であるバラザフに、アジャリアは本音を漏らした。が、バラザフにはアジャリアのシルバ家の畏怖の裏に、まだまだ余裕が潜んでいるように見えてならなかった。
 ――真に恐ろしいのはアジャリア様自身ではないのか。
 またアジャリアはエルザフの息子達の中でバラザフが一番知謀に優れているとも評した。家来の武勇以外の面が漏らさず目に映るという事はアジャリア自身がそうした頭の使い方をしているといえるし、先代のナムルサシャジャリのような力攻めに偏らない戦線展開が予想出来る。自分の活躍の場はまだまだ増えるとバラザフは期待した。この時バラザフの胸中には片隅にではあるが、確実に、
 ――アジャリア様と俺は毛色が同じだ。
 と本来畏怖すべき主人に対して不遜な思いが生じていた。

※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

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