2019年2月23日土曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第2章_29

 急な発展と衰退を繰り返しているらしく、郊外には廃墟が目立った。
町の外では駱駝ジャマルハルーフ が放牧され、人々はそれらの肉や乳を糧として生きている。その点はアラーの街と同じであろう。住民のほとんどがこの放牧に従事しており、学のある若者は稀で、所有する駱駝ジャマル の数がそのまま貧富の差となる。
 他に職種というものは存在しないらしく、
 ――駱駝ジャマル の背中に置かれている物が仕事さ。
 と彼等は言う。
 彼等の祖先は水を求めて砂漠を彷徨い、ほんの僅かでも水の恵みのあるこの場所で放牧するに至った。
 ヒジラートファディーアと名づけられたこの集落は、「美徳の移行」という意味を持ち、食の寛大さと心の寛大さを願ってのものらしい。
 ハラドからは北東に位置し、一日あれば往復が可能な距離である。嫁を娶り一家長としてハラドにも屋敷を与えられているバラザフは、管理のためこの二点を往復する事になった。
 ヒジラートに自警団のようなものは常駐しておらず、バラザフ等が着いた時にも住民は少しだけ奇異の目を向けただけで、特に嫌がるという風でもなかった。
 ――そのうち馴染んでゆけばよい。
 そう考えながら家人と共にすっかり砂を被ってしまっている太守邸の掃除に取り掛かると、住民が幾人か言葉も無く砂をかき出すのを手伝いに来た。

※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

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