2019年2月24日日曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第2章_30

 夜になると住民の財産である駱駝ジャマル が屠られ、バラザフ等に振舞われた。
 全く飾り気が無い。だが、この素朴で心や優しき自領民達を愛してゆけそうだとバラザフは思った。人の裏表の無い優しさは受けたその時だけでなく永く受けた人の心の糧となるものである。
 太守府があり小さいながらもしっかりとした定住集落を設けているにもかかわらず、ヒジラートの住民等はここに未来永劫住み続けるつもりはないらしい、という事をバラザフは後で聞いた。
 彼等は駱駝ジャマル と共に生きる一族であり、駱駝ジャマル を養える水がある限りここに留まるであろうが、もしこの先涸れる事があれば、また水を求めて移動し、次の集落を創る。
 早くも彼等に対する家族の情にも似たものがバラザフの中に生まれつつあったので、
「彼等は何処からか来て、俺を通ってまた何処かへ流れてゆくのか」
 と、ある種詩人のような感傷で言葉を漏らした。
 そんな兄バラザフに対して、弟のレブザフは、
「彼等が流浪の民ならば、彼等が去った後にまたここに新たな民が流れて来るのでは。我等は彼等がここに留まっている間だけでも、この城邑アルムドゥヌ と民を護ればそれでよろしいのです」
 と、すでに兄の副官アルムアウィン になったかのような口ぶりで柱を支えた。
 シルバ家の当主となった長兄のアキザフの方は、アルカルジの太守に任命され、ベイ軍の調略に備えていた。
 アジャール、ベイの戦いの舞台の中心であったジャウフから遥かに離れたアルカルジであるが、サラディン自身が智勇兼備の勇将であるため、領内のほんの少しの綻びも見落としてはならず、そこにサラディン自身が精鋭を率いて忽然と現れ奇襲してくるかもしれず、全く油断のならぬ盤面がその一帯にある。

※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

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