2019年2月17日日曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第2章_23

 扉は壊れようとしていた。闇の奥の邪視アイヤナアルハサド を見た父エルザフの指示通り、バラザフは一切の知覚を閉じた。
 ――とにかく関わってはならない。思考さえもほぼ停止させた。元来知恵の回るバラザフにとって、これは逆に気熱を大いに消耗する苦行である。
 最も注意せねばならぬのが噂好きのナウワーフとの会話だが、彼との間にもしばらく私語をせぬよう固く取り決めていた。ナウワーフも察しの悪い男ではないので、その理由を敢えて尋ねるような事はしなかった。
 また が飛んできた。
 ヤルバガ・シャアバーンに続いて、アンナムル寄りの連累がどうやら二百名近く粛清されたらしい。
 アジャリアは父ナムルサシャジャリを追い出した時のような手際で、アンナムルを寺院に閉じ込め、飛び交うを素早く始末した。
 父子相克の火種が未だ燻る中、アジャリアはカトゥマル妻にハイレディン・フサインの娘を迎えた。
「この婚儀について妙な憶測をする者がいます」
 ある日、固く口を閉ざしていたエルザフがバラザフに語りだした。
 アンナムルとその連累が蜂起したのは、この婚儀が気に食わなかったためだと言う者が居るのだという。だがアンナムルは賢君アジャリアの子らしく、そのような狭量ではなく、寧ろ弟であるカトゥマルの結婚を心より喜んでやれる程の器量なのだと、あまり他人の事情に首を突っ込まないエルザフにしては珍しく、アンナムルを俎板に載せて、細かく切って見せた。
「意見が対立したとはいえ、跡継ぎに有能な者が生まれるというのは父としては嬉しいものです。アジャリア様も時期を見計らってアンナムル様を呼び戻されるでしょう」
 口に蓋をするような緊迫感からこれでようやく解放されるのかと安堵したものの、跡継ぎと聞いて、バラザフは少しばかり苦い色を浮かべた。兄たちと較べて自分の方が跡継ぎに相応しいとまでは言わないが、仮に自分は跡継ぎには役不足で凡庸なのかと問われれば、言下に否定出来る程の自信家は、しっかりとバラザフの中に棲んでいた。

※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

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