バサの
一方、攻める方のアジャリアは余裕である。
「ファリドの小僧、ポオチャを頬張るのも忘れて、また身体が引き締まるであろう。さて、強攻めをして怪我でもさせられてはかなわぬから、ゆっくり絞めてからハラドに帰るとするか」
アジャリアはバサの
――ポアチャ! ポアチャ! ポアチャ!
単純だがファリドにとってはこの上なく効果的な挑発である。
バラザフの脳裏に浮かぶファリドは真っ赤に上気して、物を投げつけ、蹴飛ばし、大暴れしていて、実に滑稽な姿であった。思い出し笑いを配下に見られると自身が恥ずかしいので我慢はしてはいるが、どうしてもバラザフの口吻からは笑いが漏れて仕方なかった。
笑いを堪えるのに必死だったのはバラザフだけではない。バサの
ファリドは――、ポアチャは持っていなかった。だが、バラザフの脳裏に出現した姿とさほど遠からぬ容態で、怒りに突き動かされ、一人の大乱闘を踏んでいた。周りの備品がどんどん破壊されてゆく。
「あの……ポアチャ、お持ちしましょうか?」
「要らぬわ! アジャリアめ、人をこけにしやがって!」
ファリドに対してのみ通用する侮辱だけに、その効き目は大きかった。
この頃のアルカルジに居るバラザフの父エルザフは、長男とともに
地道にアジャール家の自勢力を肥えさせてゆくシルバ家の活動は、アジャリアの信任をさらに篤くし、功労が称えられるとともに、
――アルカルジの近辺の諸事、随意にされたし。
とまで言わしめたのであった。
アジャリアのエルサレム獲得の戦略路線はほぼ固まりつつあった。
同年、カウシーン・メフメトが没し、メフメト家ではカウシーンが遺した言葉通り、サラディン・ベイとの同盟を破棄して、アジャール家との再同盟を方針を出してきた。この事はアジャリアにとっては都合が好く、東側の戦線に配慮する必要が無くなった。盤面がアジャリアの大望を果たせる状況に整ってきていた。
カーラム暦994年、炎節――。アジャリアが俄かに病臥した。エルサレム侵攻のための兵を動かそうとの沙汰の後の事である。
「ここ数年、食欲の無い日々が続いていたのだ。地に身体が引かれるのを感じる。横なっていても沈んでいくような感じがするのだ」
バラザフは、アジャリアの体調不良はこの猛暑のせいであろうと思って見ていた。ファリド・レイスに劣らぬほどふくよかだったアジャリアの姿は、バラザフが会う度に肉が落ちているように見える。
「アジャリア様、この酷暑はご自身の身体に障ります。涼風の吹き始める頃に、また軍を編成し直しては」
しかし、アジャリアはその意見には肯首せず、
「もう少しで食欲も元に戻りそうだ。本来ならすぐにでも出陣したい所なのだ。各部隊、
と覇気の無い声で命令した。
※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。
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