2019年1月6日日曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_10

 アキザフの言葉に示されているように、シルバ家には戦いで負けても自決する者は一人もいなかった。食える物は何でも食う。自尊心を棄てる。合理的判断によって自尊心をかなぐり捨てるのである。
 過去にアキザフ、バラザフの父エルザフはアジャリアの父親のナムルサシャジャリと戦い、負けている。その際にもエルザフは死を選ばず、リヤドからブライダーを経てジャウフ辺りまで逃げ延びて巻き返しを図ったのだった。
 エルザフの「死なぬ覚悟」は功を奏した。一時期砂を噛んだシルバ家はアジャリアが父ナムルサシャジャリを追放したアジャール家でアジャール陣営に属する事となり、現在のシルバ家が再興出来たのである。
 死なぬ覚悟というシルバ家の家風は、エルザフからバラザフへ、さらにバラザフの子サーミザフ、ムザフへと、その血と共に伝えられてゆくことになる。
「我らはそれぞれ別々の出撃となる。シルバ家の若造の初陣ではなくアジャリア様の近侍ハーディルとしての初陣を果たせ」
「はい」
 次の朝、アキザフは父エルザフ、弟でありバラザフにとっては二番目の兄であるメルキザフと出征していった。バラザフはアジャリア本軍に所属して家族等とは一日遅れてハラドを発った。
 ネフド砂漠におけるアジャリア・アジャールとサラディン・ベイの対戦は此度で四度目となる。
 先年までアジャリアはネフド砂漠周辺の領有を巡ってネフドの勇者タラール・デアイエと激闘を繰り広げていた。タラール・デアイエはアジャリアに敗れた後カイロへ逃れ、ネフドの首長達も中心であるタラールに倣うように、皆サラディン・ベイを頼る形となった。
 そして義人サラディンはこれらの救済のため、アジャール家討伐の兵をネフド砂漠まで繰り出すようになり、現在の両家の対立構造に至る。

※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

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