たった一晩でダンマームから九頭海蛇
が消えた。多勢のアジャール軍はバヤズィトの夢想の中の存在になってしまったかのようである。自分達が追い返したから居なくなったのではない事だけは確かである。不可解な撤退であった。
ダンマームの城邑
は陥落せずに済んだ。半死である自分も命永らえた。だが、まだ自力で歩き回るのは難しく、頭からも血の気が失せているのがわかる。
――あの猛攻も厳しかったが、撤退の手際も恐れ入るな。
朦朧とした頭でバヤズィトは、戦いを回想し分析していた。あそこまで強攻めをして、しかも落城寸前にまで追い詰めておきながら退却していった理由は一体何だ。
――そうか!
ここでバヤズィトは、アジャリア・アジャールの真の狙いがバーレーン要塞にあると思い至った。父親のカウシーンはバヤズィトにアサシンを配下として与えていた。今がそれを用いるべき時である。
「命を削ってバーレーンまで駆けてくれ。アジャール軍の到着より早く報せが届かねばならない。二十万の大軍がバーレーンに向っている事を報せるのだ」
バヤズィトの命に言葉は返さずアサシンは消えた。青い煙のようなものだけを残し、それもすぐに霧散して見えなくなった。
※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。
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【創作活動における、ご寄付・生活支援のお願い】
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ダンマームの
――あの猛攻も厳しかったが、撤退の手際も恐れ入るな。
朦朧とした頭でバヤズィトは、戦いを回想し分析していた。あそこまで強攻めをして、しかも落城寸前にまで追い詰めておきながら退却していった理由は一体何だ。
――そうか!
ここでバヤズィトは、アジャリア・アジャールの真の狙いがバーレーン要塞にあると思い至った。父親のカウシーンはバヤズィトにアサシンを配下として与えていた。今がそれを用いるべき時である。
「命を削ってバーレーンまで駆けてくれ。アジャール軍の到着より早く報せが届かねばならない。二十万の大軍がバーレーンに向っている事を報せるのだ」
バヤズィトの命に言葉は返さずアサシンは消えた。青い煙のようなものだけを残し、それもすぐに霧散して見えなくなった。
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