2019年12月15日日曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第4章_2

 シーフジン――。
 このアサシン集団はそう呼ばれている。魔人の剣の意味の通り人外の業が彼らの仕事である。
 バヤズィトの曽祖父がこの地に勢力を興して以来、シーフジンはその影でメフメト家を支えてきた。このメフメト家の始祖は、シーフジンを大いに活用し、謀略、謀殺の任を担わせて、メフメト軍を肥大させてきた。
 バヤズィトは父からシーフジンの人ならざる者とも言える力を聞かされていたが、今初めて目の前でその力を披露されたのであった。まさに魔人のように在れて消え失せたのである。
 シーフジンというこのアサシン集団がメフメト家に与力するようになったのは、メフメト家の版図にドーハが加わった事による。
 一所に勢力が安居し、それが永く続くと支配者は領内の既得権を奪いたくなるもので、ドーハの旧領主も、この地のアサシン団から忠誠という縦糸を要求した。
 バヤズィトの曽祖父はその点をよくわきまえていて、力で押さえ込もうとせず、安撫策を採りシーフジンに概ね自由を認めていた。これが逆に彼らの信頼を勝ち取ることに繋がり、以来、メフメト家とシーフジンとは良好な関係が続いていた。シーフジンの棟梁はモハメド・シーフジンという名で呼ばれている。シーフジンに一人の人格として名を与えて呼ぶようなものである。
 そして、一般的にアサシン、間者ジャースース である者をメフメト家ではシーフジンと呼び、世間ではメフメト家のアサシンをそう呼んだ。

※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

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