新しい年になってもアジャリアの戦略は全く停滞しない。それに付随するような形でバラザフも動き続けなくてはならない。
相変わらず、アジャール軍は広大な包囲網の中にあった。しかしアジャリアにはアジャール軍単独でこれらに対する自信がある。余りに広すぎて包囲の意味を成さぬというのが一つ。そして、
「ベイ軍とメフメト軍の不和も我等と同じくらい根深い。いずれあちこちで綻びが生じるはずだ」
というもっともな理由があるからである。
ベイ軍とメフメト軍が共闘してアジャール軍と戦うとすれば、アルカルジ一点である。メフメト軍は北からベイ軍は半島を海岸沿いに南下してアルカルジの南に回れば挟撃が成立する。
そのままいけばそこが三つ巴の場になるはずである。だが、そこからアジャール軍が一歩退いてしまうと、後はベイ軍とメフメト軍の単純な衝突の構図になる。
ベイ家は当主がサラディンになってから侵攻路線を採っていないが、精強なベイ軍を駆って以前は南に進出していた。それはメフメト家も同じで両家は過去にしばしばアルカルジで衝突している。小領主が寄り集まって出来たこの地域は、ひとつの集落を落とすとその分、僅かではあるが自分よりの領土を確実に増やす事が出来る。大きな勢力からすれば攻め取りやすい領域であった。
アジャール軍がアルカルジ周辺を獲得出来た経緯は、ベイ軍、メフメト軍がぶつかり合い疲弊した隙に、すかさず入り込み支配を確実にしたのである。アジャール家にシルバ家が傘下として入ってからは、諜報に強い彼らにアルカルジを任せたのが功を奏して、アルカルジにおけるアジャール家の支配は安定している。
「なに、ベイ軍とメフメト軍はおそらく噛み合わんであろう」
アジャリアにはベイ家とメフメト家を繋ぐ同盟の糸のような物が見えているようだった。そして自信のある様子からすると、アジャリアがその糸に触れて吊る事が出来るようでもある。
家来達にこの裏は全く読めなかった。ただ、
――また、アジャリア様が深謀で何かを掴んでおられるのだ。
と、アジャリアの自信に乗った安堵感のみはしっかりとあった。
※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。
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相変わらず、アジャール軍は広大な包囲網の中にあった。しかしアジャリアにはアジャール軍単独でこれらに対する自信がある。余りに広すぎて包囲の意味を成さぬというのが一つ。そして、
「ベイ軍とメフメト軍の不和も我等と同じくらい根深い。いずれあちこちで綻びが生じるはずだ」
というもっともな理由があるからである。
ベイ軍とメフメト軍が共闘してアジャール軍と戦うとすれば、アルカルジ一点である。メフメト軍は北からベイ軍は半島を海岸沿いに南下してアルカルジの南に回れば挟撃が成立する。
そのままいけばそこが三つ巴の場になるはずである。だが、そこからアジャール軍が一歩退いてしまうと、後はベイ軍とメフメト軍の単純な衝突の構図になる。
ベイ家は当主がサラディンになってから侵攻路線を採っていないが、精強なベイ軍を駆って以前は南に進出していた。それはメフメト家も同じで両家は過去にしばしばアルカルジで衝突している。小領主が寄り集まって出来たこの地域は、ひとつの集落を落とすとその分、僅かではあるが自分よりの領土を確実に増やす事が出来る。大きな勢力からすれば攻め取りやすい領域であった。
アジャール軍がアルカルジ周辺を獲得出来た経緯は、ベイ軍、メフメト軍がぶつかり合い疲弊した隙に、すかさず入り込み支配を確実にしたのである。アジャール家にシルバ家が傘下として入ってからは、諜報に強い彼らにアルカルジを任せたのが功を奏して、アルカルジにおけるアジャール家の支配は安定している。
「なに、ベイ軍とメフメト軍はおそらく噛み合わんであろう」
アジャリアにはベイ家とメフメト家を繋ぐ同盟の糸のような物が見えているようだった。そして自信のある様子からすると、アジャリアがその糸に触れて吊る事が出来るようでもある。
家来達にこの裏は全く読めなかった。ただ、
――また、アジャリア様が深謀で何かを掴んでおられるのだ。
と、アジャリアの自信に乗った安堵感のみはしっかりとあった。
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