2019年1月3日木曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_7

 幼少の頃よりバラザフは常に行いに慎重で軽率な言動は避け、また言葉数も少なかった。子供には、大人からこの川は溺れるから入るな、と言われると余計に行ってみたくなる心が湧く。だが、バラザフにしてみると周りの子供たちのそういった心理は無意味なものに感じられた。
 ――ここは溺れる、危ない。
 バラザフにとってはそれは自分が経験せずして前もって得られた「情報」である。先を知るための情報が得られたのに何故それを無駄にするのか。
 そうした幼い頃の思慮の糸が、今の近侍ハーディル時代のバラザフに繋がり、さらに未来の謀将バラザフ・シルバへ延長してゆく。
 バラザフの父はアジャリアの家臣の一人で、智勇兼備と称されるエルザフ・シルバである。バラザフはエルザフの三男として生まれ、アジャリアに近侍ハーディルとして才能を認められる事になるが、アジャリアと縁故を得るきっかけは、彼がシルバ家からアジャール家への人質としてハラドへ送られてきたことによる。
 バラザフを含めた近侍ハーディル朋輩達は、アジャリアの子カトゥマル・アジャールが領主になる頃には、各々、部隊長にまでは出世する将来が約束されている。つまり彼らは未来のアジャール家を支える柱となる若者たちなのである。

※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

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