2018年11月30日金曜日

『アルハイラト・ジャンビア』第1章_3

 齢十五に至り成人の仲間入りをしたばかりの、バラザフは十名ほどの兵卒を従えていた。起伏の少ない土地に出来た砂漠緑地ワッハで休息を取っていたところである。
 兵卒達が武器を構え部隊に俄かに緊張が走った。水辺に居たサクルが飛び立つ羽音で警戒しての事である。
 バラザフ達はジャウフ近くの小さな集落に来ている。名をミーゴワという。集落の南に砂漠緑地ワッハが広がり多くの命を養っている。ジャウフとは“腹の張った谷”の意味を持つ。客人が腹を満たしても更に食べ物を勧める、住民の気前の良さを表しているともいえる。
 砂漠といえば通常、上に飛鳥なく下に走獣なく、という言葉で表現されるような不毛な積砂の地帯である、だがここは、そんな死の世界ではなく、狒狒ラバーハ野兎カワイド沙漠狐ファナカサクルネスルハダア他、様々な動植物がここで生きているのである。
「そう殺気立たなくてもいい。サクルが得物を見つけたんだろう」
 辺境であるジャウフのさらに辺境の集落である。敵が潜んでいるわけがない。
「暑いな……」
 左手で額の汗を拭いながら、バラザフは呟いた。
「だが、暑いからこそこんな水辺は本当にありがたい」
 バラザフ一行はこの辺境のジャウフを偵察するよう命じられていた。だが、彼の心には純粋にこの旅の日日時時を愉しむ余裕があった。日は南から少し傾いただけで、日暮れまではまだ時間があった。だが、ここからアジャリアの居るハラドまで南東にひたすら歩き続け約二週間、最寄のジャウフですら丸一日かかる距離である。
「今夜はここの集落で世話になるとしようか」
 バラザフ達が水辺を後にしようとしたとき、先程、鷹が飛び立った辺りから草葉が擦れる音がした。兵たちが再び武器を構える。
「誰かそこに居るのか!」
 茂みからは返事は無く、かわりに弩から放たれたであろう矢が空を裂きバラザフ目掛けて飛来した。すんでの所で半身を逸らし、矢はバラザフの頬をかすめていった。
「仕方がないな」
 バラザフの言葉の意図を解して、兵士達が茂みとその後ろの水辺を囲むように半円状に間合いを狭めてゆく。隊長であるバラザフを仕留め損なった今、この者が部隊の統率を乱した隙にのがれられる見込みは極めて低くなったといえる。

※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

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